収用の「建物移転補償金」と「移転雑費」の課税関係

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 公共事業において必要となるのは土地で、建物が直接収用の対象となることは、ほとんどありません。このため、収用において「対価補償金」が支払われるのは土地に対してであり、建物に対しては、建物移転補償金という名目で金銭が支払われます。理屈としては、公共事業で必要な土地については譲受けたい、公共事業で必要でない建物については、所有者で移転してもらいたい。このため、土地については取得対価である「対価補償金」を支払う、建物については移転のための費用である「移転補償金」を支払うということになります。
 譲渡所得で収用の5,000万控除や買換特例の対象となるのは基本的には対価補償金のみです。ただ、現実には収用の対象土地上の建物を移転することは稀で、ほとんどの場合は所有者が取壊します。土地建物の所有者から見れば、公共事業のため建物を取壊して土地を譲り渡したのに、建物に対して支払われた補償金が収用の特別控除の対象とならなければ納得できないでしょう。このため、建物移転補償金であっても、実際に建物を取壊している場合は、当該建物の対価補償金であると扱うことができ、収用の5,000万控除や買換特例の対象になります(措置法通達33-14)。
 建物移転補償金を対価補償金として譲渡所得の申告をする場合、建物の取壊しに要した費用は譲渡費用となります。収用の5,000万控除を適用する場合は、建物移転補償金の額から取得費、譲渡費用を差し引き、残額があれば5,000万円を上限に特別控除を差し引きます。なお、建物を実際に引き家等している場合は、原則とおり移転補償金となり、移転補償金の額から実際に移転に必要な費用を差し引き、残額があるならば一時所得として課税されます。
 ところで、収用で建物がある場合、建物移転補償金の他に「移転雑費」が支払われるのが一般的です。移転雑費は移転補償金
に分類され、交付を受けた金額からその交付の目的に沿って支出した金額を控除し、残額があれば一時所得として課税されます。
 移転雑費は、移転先又は代替地等の選定に要する費用、法令上の手続に要する費用、転居通知費、移転旅費その他の雑費、就業できないことにより通常生ずる損失の補償とされています。
 では、移転雑費も建物移転補償金も同じ移転補償金であるので、建物取壊しの費用を移転雑費から差し引くことはできるのでしょうか。また、移転雑費を対価補償金として5,000万控除や収用の買換特例の対象となる譲渡所得として申告することは可能でしょうか。
 答えはいずれも不可です。
 まず、移転雑費の交付の目的は、広い意味では建物の移転等に関連する費用ですが、収用事業により移転が必要となる建物そのものに係る費用ではありません。このため交付の目的に沿って支出した金額には建物の取壊し費用は入らず、移転雑費から差し引くことはできません。次に、移転雑費は補償金区分は移転補償金ですが、移転等が必要な建物の補償金ではないため、措置法通達33-14により対価補償金とは取り扱えません。このため、譲渡所得として申告することはできないのです。

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