事業譲渡スキームの法務と税務のポイント

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事業譲渡スキームの法務と税務のポイントについて教えてください。
下記です。

【事業譲渡の法務と税務のポイント】

 一般的には事業譲渡スキームが好まれる理由は、1)株式譲渡スキームでの包括承継による売主会社の潜在債務、訴訟リスクの遮断、2)タックスメリットの2つがあります。
 このうち、1)のリスク遮断については(上表(※)箇所)、法実務では簡単に割り切れるものではないことに留意が必要です。この点については、類書においてかなり誤解の多い箇所になります。例えば特定の不動産に土壌汚染がある場合、その回復、あるいはその回復に係る費用分の譲渡価格減少交渉、そもそも当該不動産は譲渡除外する等のリスク遮断は可能です。しかし、事業については特定の一部を切り取り譲渡したとしても、潜在債務や訴訟リスクは事業全体に係るという考え方も法律家には存在するため、単純に切り捨てられるものではありません。最終契約書で責任範囲を限定しても上記について同様のことがいえます。
 すなわち、事業譲渡を積極的にとる理由は上記2)タックスメリットがある場合に実務では限定されます。
 この点、事業譲渡(会社分割でもほぼ同様)スキームにおいて否応なしに事実上承継してしまう簿外債務として
・前受金
・製造物責任問題
・保証金問題
・環境問題
・許認可問題
・COC(チェンジ・オブ・コントロール)問題
・所有権留保その他担保問題
・商号続用責任問題
・労働契約承継法問題
・従業員の転籍問題
・商号続用責任類推適用問題等
・詐害行為取消権・破産法の否認権問題
を例示列挙しているものもあります11。確かに原告の主張(戦い方、いわゆる攻撃防御も含む)としてそれらが訴訟物となるという意味において上記の典型的な問題点を列挙していると筆者は考えますが、法律家によっては事業の定義そのものでも(より単純に一部事業譲渡したところで、上記問題は事業全体に係るという考え方)主張し得るという見解もあるようです。
 繰り返しになりますが、株式譲渡と事業譲渡の選択はタックスメリットに係る有利・不利判定であり、その他法的リスクは程度の差こそあれ、それほど大きく変わりません(アメリカにおけるM&A 契約書は全てのリスクを全て条項化するため、非常に分厚いものとなりますが、我が国でも公開企業のみならず、中小・零細企業M&A 契約書もそのようになる日がくるかもしれません)。

11 M&A 総合法律事務所、公認会計士佐藤信祐事務所『事業承継M&A の実務 株式譲渡・事業譲渡・会社分割に係る契約書の逐条解説付き』清文社(2019/1/15)p.30~36を参照しています。

【出典書籍】
Q&A「税理士(FP)」「弁護士」「企業CFO」単独で完結できる
中小企業・零細企業のための M&A実践活用スキーム
<ロギカ書房>

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