上場株式の取得費について令和元年11月28日に以下の裁決が出ています(公表裁決:裁決事例集No.117)。
事案の概要は以下のとおりです。なお、内容を簡略化して取得費部分についてのみ記載しています。
Aは、平成28年に死亡した請求人の母から上場株式等を相続により取得した。Aはその株式を一般口座で売却した。Aは所得税の確定申告は行ったが、株式の譲渡所得は申告しなかった。
現処分庁(税務署)は株式の譲渡所得が申告漏れである等として更正処分を行った。なお、原処分庁は、本件各株式の譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入する金額について、概算取得費を用いて計算した。
現処分庁(税務署)は株式の譲渡所得が申告漏れである等として更正処分を行った。なお、原処分庁は、本件各株式の譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入する金額について、概算取得費を用いて計算した。
これに対して審判所は次のように判断しました。
原処分庁が課税処分を行うに当たって、請求人に対する調査を含め、その調査を尽くしても取得時期及び取得価額が明らかにならない場合及び概算取得費を取得費の額とすることが納税者の利益と認められる場合において、概算取得費を用いることも相当である。…(取得価格は)取引証券会社から交付される取引報告書や顧客勘定元帳などにより確認することが可能であり、これらによっても取得価額が明らかでない場合には、株式等の名義書換日を調べて取得時期とし、その時期の相場(終値)で取得価額を算定することも、明確かつ簡便な推定方法として合理的であると解される。本件各株式の取得価額について、これらを直接的に立証する客観的な証拠資料等が確認できないところ、上記同様、本件各株式についてその名義書換日を調べて取得時期とし、その時期の相場(終値)で取得価額を算定することも、合理性を有する取得価額の把握方法であると解される。
原処分庁は…できる限りの調査を尽くしたものの、…大部分の上場株式等の実際の取得価額は判明しなかった旨主張する。しかしながら…名義書換日及びその時期の相場(終値)を確認することで取得価額を算定することが可能であるといえるから、総平均法に準ずる方法により算定すべきである。
原処分庁は…できる限りの調査を尽くしたものの、…大部分の上場株式等の実際の取得価額は判明しなかった旨主張する。しかしながら…名義書換日及びその時期の相場(終値)を確認することで取得価額を算定することが可能であるといえるから、総平均法に準ずる方法により算定すべきである。
審判所は、課税庁側が概算取得費を採用するためには、調査を尽くしても取得時期及び取得価額が明らかにならず、かつ概算取得費を採用することが納税者の利益となる場合としています。また、本件においては、審判所が職権調査を行い、株式の名義変更時期及びその日の最終価格を調査し、その取得したと推計される日の終値を取得費として採用しています。
本件は上場株式ですが、他の財産の取得費の算定も同様の取り扱いがなされると考えられます。相続等した不動産を売却した際、直接的に取得価格を立証する証拠資料がなかったとしても、概算取得費以上での取得が推定される場合は、他の合理的な推定方法で算出した取得費で申告することを考えるべきでしょう。