今回から、Excelグラフを活用した会計データの分析のうち、キャッシュフロー(CF)について見ていきます。
会計データにおける分析では、
・おカネは足りているか?
・何か異常はないか?
の3点を説明できることが重要です。前回まで「儲かっているか?」の分析例をご紹介しました。今回は「おカネは足りているか?」(CF分析)について見ていきましょう。
(1)「比較」で検証する
まずは「現預金残高が十分か?」を検証します。
「現預金残高が十分か?」は、「事業規模」と比較しないとわかりません。事業が大きくなればなるほど、必要となる現預金残高も大きくなるからです。
「事業規模」を示す基準として一番メジャーなのが「売上高」です。「売上の何か月分の現預金残高」という見方をよくすると思います。
同じ1億円の現預金残高でも、売上が100億円の会社と10億円の会社では、「十分かどうか?」の解釈は全く変わってきます。
業種によっても、また経営者の考え方によっても、どのくらいを十分と見るかは変わってきますが、おおむね1.5~2か月分くらいが、安心できる残高の1つの目安とは言われています。
もう1つの基準値としては、運転資金(売上債権+棚卸資産△仕入債務)があります。
営業サイクルが1回転する間に、確保しておくべき目安の資金となります。運転資金に対して、どれくらい余裕をみて現預金を持っておくか、という見方が出来ます。
これら「1か月の平均売上高」、「運転資金額」を基準値として、現預金残高と棒グラフで対比させて、その残高が十分なのかどうかを視覚的に検証します。
直近月だけでもよいのですが、期首時点の状況も並べて比較したほうが検証しやすいので、期首と当月末の2つの時点での状況を並べて棒グラフにしてみます。
それぞれについて期首と当月末の棒グラフができますが、期首における3つの棒グラフ、当月末における3つの棒グラフという形に並べたいので、右クリックで「データの選択」→「行/列の切り替え」を押して、グラフの向きを入れ替えます。
あとは、右クリック→「データ系列の書式設定」から、色を変えたり、「データラベルの追加」から金額を表示させるなどをして見た目を整えれて完成です。
たとえば、この例では、期首時点と当月末時点で同じ現預金残高ですが、売上が前期よりも伸びており、月の平均売上高は前期よりも大きくなっています。
売上に応じて運転資金額も大きくなっているので、期首(前期)に比べると運転資金額に対する余裕度も少なくなってきている状況がわかります。
数字だけで見れば、期首も当月末もあまり違いはないように思えますが、単純に棒グラフで並べただけでも、グラフにすると状況の違いが視覚的にはっきりします。
この残高でも十分という判断でもよいのですが、事業規模に照らした余裕度の状況の違いをわかった上で判断する必要があります。
簡単な棒グラフですので、「おカネが足りているか?」の基本として、現預金残高を視覚的に検証するようにしましょう。
(2)「分解」で検証する
次に、キャッシュフローの増減状況を検証します。
キャッシュフローの増減状況は、キャッシュフロー計算書を見ればわかりますが、ただ、数字だけで見るよりも、グラフを使ったほうがよりわかりやすくなります。
キャッシュフロー計算書自体が、営業CF、投資CF、財務CFの3つに区分(分類)してくれている表ですので、単純にこの3つのCFをそのまま縦棒グラフとして並べてみます。それだけでも、気づきを得やすくなります。
たとえば、CF計算書の3期比較表から、営業CF・投資CF・財務CFの最終値とCF増減値だけを持ってきて、これを単純に縦棒グラフにします。
この表だと、それぞれのCFの前々期、前期、当期が並んでしまうので、グラフの向きを変えてあげます(前々期、前期、当期におけるそれぞれのCFが並ぶように)。先ほどの「現預金」の比較グラフと同様、右クリックで「データの選択」→「行/列の切り替え」を押して、グラフの向きを入れ替えます。
あとは、色やタイトルを編集してグラフを整えれば、完成させます。
これだけの単純なグラフですが、数字だけの資料よりも気づきを得やすくなります。
説明される方もわかりやすさが全然違ってきます。
この例でいうと、「当期はあまり投資をせずに借入の返済を進めた期」といったことを説明すると思いますが、グラフがあると印象がだいぶ変わります。
細かい増減の原因などは、数字で確認すればよいので、大まかな各CFの増減状況はグラフを使って示すようにしましょう。
今回は、「おカネは足りているか?」の検証として、「比較」と「分類」の切り口を使ったグラフ例を見ました。
もちろん、これらはほんの一例ですので、他にもいろんなグラフの示し方があります。
ただ、「比較」、「分類」、「傾向」といった切り口を意識して数字を見ていく点は共通しています。また、単純な数字でもグラフ化してみると意外な気づきがあったりしますので、既存の数字を試しにグラフ化するだけでもよいと思います。
次回も、引き続き「おカネは足りているか?」の分析について見ていきます。
今回みていない「傾向」の切り口を使った分析例について、ご紹介する予定です。
会計データの価値を最大限引き出すExcel活用術
<清文社>