株式譲渡スキームにおける個人株主、法人株主混在パターンの実例、違法配当の有効性

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【前提】
・X 社は飲食業を経営しておりM&Aで売却を希望しています。
・X 社の概要は次の通りです。
→簿価純資産は約△5,000万円の債務超過  資本金1000万円
→繰越欠損金約1億円
→ M&A前株主構成
 (代表者)  
A 55% 
B 22.5%(Aと血縁関係なし、役員ではないが実質的な経営者)
C 法人(B が100%保有、現時点で欠損会社)22.5%
→ X社はAから約1,000万円、Bから約100万円 C社から約2,000万円の債務がある。

・今回の相談者はB、Bは現時点で下記のスキームを考えています。

(STEP 1)BがAの株式を無償取得、あるいはC法人がAの株式を無償で金庫株する。
(STEP 2)Aの債務を債務免除(債権放棄)。
(STEP 3)上記完了後X社をM&Aで売却、買主は営業権を重視しているため、現時点の債務超過を承知の上で購入希望しています。
今回の場合、どのようなスキームを構築するのがベストと思われますか。
上記現行のスキーム全体につき、課税関係を整理します。その後、別手法をアプローチしてみます。

解説

1.上記スキームの各STEP毎の留意点について

(STEP 1)について
○ A → B の場合…
 譲渡ということで個人間売買は相続評価額原則が税務上適正評価額となります。オーナースイッチの場面であるため、配当還元方式価格は利用できません。
 上記前提だと、相続税評価額原則もおそらく0になるのでしょうが、ご心配なら実際に計算を行ってください。なお、評価額がついた場合には、評価額 - 0 = 評価額がみなし贈与(相法7)が適用されます。

○ A → C の場合…
 個人法人間譲渡であり、オーナースイッチの局面ですから、配当還元方式価格ではなく所得税基本通達59-6 (小会社方式)が適用されます。
 上記前提では小会社方式での株価が0になるのか判断つきません。実際に計算してください。
 この場合、無償譲渡し、かつ、計算結果が下記の通りになったと仮定するとそれぞれ課税関係が生じます。
 ・所得税基本通達59 – 6 × 1/2 > 0 のため、みなし譲渡が発動します(所法59)。
 ・X 社の株価上昇分だけ、株主間贈与が発動します(相基通 9-2)。
 今回の場合、A → B へは贈与税、A → C 社へは寄附金課税です。金庫株において無償取得の場合には財源規制はありません(会461 反対解釈、本条は有償取得に限定されている )。
(STEP 2)について
 X社で債務免除益が計上されますが、Aの債務が繰越欠損金以内なので、法人の課税所得に影響は与えません。
 ただし、(「債務免除益後の株価」-「債務免除益前の株価」)× 株式数 =贈与税の課税標準と計算されるみなし贈与の発動可能性があります。おそらく債務免除後 0 - 債務免除前 0 = 0で課税関係生じず、だと思いますが、ご心配なら念のためチェックしてください。

※債務免除後の株価は類似比準要素Ⓑ、Ⓒ、Ⓓのうち、Ⓓ+債務免除益をプラスして計算しす。詳細は拙著『みなし贈与のすべて』(ロギカ書房)をご参照ください。

2.上記とは別手法について

 仮にドラスティックに組むのであれば、下記も一法として考慮に値します。
 なお、債務免除の論点は除きます。株価にインパクトを与える場合にはタイミングを考慮要素にしますが、今回は【前提】からインパクトが生じないものと想定しています。繰越欠損金が利用できるうちに利用した方がよいだけのことです。

(STEP 1)A所有X社株式をX社で金庫株。
(STEP 2)上記(STEP 1)よりC 社→ X 社の所有割合は50%になるはず。
 その時点で譲渡対価の額のうち、分配可能限度までをX 社→ C 社に配当。
C社では受取配当の益金不算入が可能(ただし、全額ではなく控除負債利子を差し引くことになる)。
 しかし、今回X社が債務超過で分配可能金額がないため、上記を実行すると会社法上、違法配当に該当。違法配当は会社法上、有効と解する余地もある(※)。

※ 会社法立案担当者のブログ下記参照のこと
http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50094786.html

 租税法上は、違法配当は有効と考える。
 実務では債権者が違法状態を訴える状態になければ、違法配当をしても問題が生じることは考えにくい。
 本ケースでは債務超過のため、そもそも分配可可能規制額がない。したがって、どれだけ配当してもよい(全額違法配当になる)。
 上記の配当について補足です。持分割合は(STEP 1)でのA からの金庫株以後、BとC社は50 %ずつになります。

1)C社のみに配当
 持株数によらず配当するには種類株式か属人株しか手法がありません。属人株の方が簡易なので(登記不要なので)特殊決議→定款変更→ C社への優先配当100%(B は0%)の定めを設定する必要があります。
 この場合、すべてC社に配当すると、今回M&Aに係る譲渡対価における税金が大減少するため、上記の属人株設定は租税回避目的認定され、B とC 社 でみなし贈与(相法9)の発動可能性が高いと思います。
 本稿脱稿時点で属人株設定に係るみなし贈与発動事例は係争において皆無ですが、念のため留意が必要です。
2)B、C社に所有割合によって配当
 総額が5,000万円だとするとBに配当せず、C社にだけ配当するものと仮定すれば半額の2,500万円がC社へ流れます。この場合、金銭配当ではなく特定の株主に対する自己株式取得を利用することになります(会法160)。特別決議で足ります。

 本事例でいうと直後にM&A による譲渡対価授受が控えており、それに係る税負担軽減なのは明らかですのであまりドラスティックに行うとかなり税ポジションとしてリスクが高まります。後者2)B、C 社に所有割合によって配当が無難と考えます。

(STEP 3)仮に上記(STEP 2)で違法配当することができた場合、M&Aの譲渡対価相当額を上記(STEP 2)の違法配当にあてればよい。この場合、Bの譲渡所得税もしくはC社の法人課税を回避できる。

 なお、後述の「令和元年12月12日公表「令和2年度税制改正大綱」では、下記のような改正が入りました。

同大綱87~89頁、
「五 国際課税
1  子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避への対応
(国税) 
⑴ 法人が、特定関係子法人から受ける配当等の額(その事業年度開始の日からその受ける直前までにその特定関係子法人から受ける配当等の額を含む。以下「対象配当金額」という。) が株式等の帳簿価額の10%相当額を超える場合には、その対象配当金額のうち益金不算入相当額を、その株式等の帳簿価額から引き下げることとする。」
という制度改正にご留意ください。

 この制度はソフトバンクグループ等の海外M&Aを活用した節税スキームの防止措置として立法されたものですが、「そういったことを全く意図していないのに、偶然、当該配当が当該制度に該当して、思わぬ課税がなされた」ということは十分あり得ます。

 資本関係が親→子とします。この際、
親の株主構成
:子会社設立日~特定支配関係発生日まで「内国法人(居住者)が子株式を90%以上」
だったとします。
 このケースのみ今回の改正に該当しません。
「他から(主に海外株式を)買ってきて、配当して中身を空っぽにして、他へ売却」が今回の封じ込めの趣旨ですから、グループ内で設立した法人については適用対象外なのです。
 したがって、上記のソフトバンクグループ租税回避スキームを長期的視点にたって実行することは可能です。上記の資本関係以外は全て今回の規制対象になるので、上掲の「思わぬ課税」にくれぐれも留意が必要です。
 大綱レベルでは詳細まで確認できないため、今後発遣される政省令、法令解釈通達の動向に注視すべき改正項目です。

 

【出典書籍】
Q&A「税理士(FP)」「弁護士」「企業CFO」単独で完結できる
中小企業・零細企業のための M&A実践活用スキーム
<ロギカ書房>

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