資本剰余金と利益剰余金との同時配当について実務上の留意点

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資本剰余金と利益剰余金との同時配当についての実務上の留意点を教えてください。
下記の裁判例を検証する必要があります。

【解説】

 利益剰余金の配当と資本剰余金の配当が同時に行われた場合に、会社は、利益剰余金の配当は、利益積立金の払戻しとして、資本剰余金の配当は、資本と利益のプロラタ計算での払戻しと処理をしました。当局はそれら配当金額を全て合算したのち、当該合算後金額につき、資本と利益のプロラタ計算での払戻しだと認定したものです。

東京地方裁判所平成27年(行ウ)第514号法人税更正処分取消請求事件(認容)(控訴)(納税者勝訴)国側当事者・国(京橋税務署長)平成29年12月6日判決 【税務訴訟資料 第267号―146(順号13095)】【受取配当益金不算入/資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当】(TAINZ コード Z267―13095)

〔判示事項〕
1 本件は、内国法人である原告が、平成25年3月期の連結事業年度において、外国子会社から資本剰余金及び利益剰余金をそれぞれ原資とする剰余金の配当を受け、前者については法人税法24条1項3号にいう資本の払戻しの一態様である「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)」に、後者については法人税法23条1項1号にいう「剰余金の配当」に該当することを前提に本件連結事業年度の法人税の連結確定申告をしたところ、京橋税務署長から、これらの剰余金の配当は、それぞれの効力発生日が同じ日であることなどから、その全額が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当するとして法人税の更正処分を受けたため、本件更正処分の取消しを求める事案である。

2 法人税法24条1項柱書きの「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算の方法は、同法の委任を受けて政令で定めることとされているところ、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当が行われた場合に、いずれが先に行われたとみるかによって、上記の「株式又は出資に対応する部分の金額」及びみなし配当の金額が異なる結果となり、そこに恣意性が介在して課税の公平性を損なうこととなる事態も想定され得ることから、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当を同法24条1項の適用を受ける剰余金の配当と整理することによりこの問題の解決を図ったものであるとする被告の主張には合理性が認められる。したがって、同法24条1項3号にいう「剰余金の配当」とは、資本剰余金のみを原資とする剰余金の配当及び資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当を指すものと解するのが相当である。

3 しかしながら、法人税法23条1項の規定が、支払法人の段階で課税済みの利益の配当について、これを受ける法人に重複して法人税を課すことを避けるために、また、同法23条の2第1項の規定が、源泉地国で課税済みの所得の配当に対して我が国が重ねて課税するという国際的な二重課税を排除するために、当該各配当の額及びみなし配当の金額を益金不算入としていることに鑑みると、同法は、利益剰余金を原資とする部分の剰余金の配当の額が、同法24条1項柱書きの「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれて同法61条の2第1項1号にいう有価証券の譲渡に係る対価の額として認識され、法人税の課税を受けることとなる事態を想定していないものと解される。

4 したがって、法人税法施行令23条1項3号の定めは、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当への適用に当たり、当該剰余金の配当により減少した資本剰余金の額を超える「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」が算出される結果となる限りにおいて法人税法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であるというべきであり、この場合の「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」は、当該剰余金の配当により減少した資本剰余金の額と同額となるものと解するのが相当である。
(筆者注:下記判示本文中、裁判所の判断のみを抜粋)

第3 当裁判所の判断
1 法人税法23条1項1号の「剰余金の配当(..資本剰余金の額の減少に伴うもの..を除く。)」との規定が、その文理上、資本剰余金を原資とせず、利益剰余金のみを原資とする剰余金の配当を意味するものであることは明らかであるから、同号にいう「剰余金の配当(..資本剰余金の配当の額の減少に伴うもの..を除く。)」とは、利益剰余金のみを原資とする剰余金の配当を指すものと解するのが相当である。そして、法人税法24条1項3号の「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)」との規定は、同法23条1項1号の「剰余金の配当(..資本剰余金の額の減少に伴うもの..を除く。)」 との規定と対になった規定であり、このうち同法23条1項1号の規定が上記のとおり利益剰余金のみを原資とする剰余金の配当を意味するものであることからすれば、その文理の論理的帰結として、同法24条1項3号の規定は、利益剰余金のみを原資とする剰余金の配当を除いた剰余金の配当、すなわち、資本剰余金のみを原資とする剰余金の配当及び資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当を意味するものと解するのが自然である。また、同法24条1項柱書きの「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算の方法は、同法の委任を受けて政令で定めることとされているところ(同条3項)、政令の定めの内容いかんによっては、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当が行われた場合に、資本剰余金を原資とする部分の剰余金の配当と利益剰余金を原資とする部分の剰余金の配当のいずれが先に行われたとみるかによって、上記の「株式又は出資に対応する部分の金額」及びみなし配当の金額が異なる結果となり、そこに恣意性が介在して課税の公平性を損なうこととなる事態も想定され得ることから、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当を同法24条1項の適用を受ける剰余金の配当と整理することによりこの問題の解決を図ったものであるとする被告の主張には合理性が認められ、同法23条1項1号及び24条1項3号の規定が「資本剰余金を原資とするもの」という端的な規定振りではなく、「資本剰余金の額の減少に伴うもの」という含みを持たせた規定振りとなっているのも、上記のような趣旨によるものと解することができる。したがって、同法24条1項3号にいう「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)」 とは、資本剰余金のみを原資とする剰余金の配当及び資本剰余金と利益剰余 金の双方を原資とする剰余金の配当を指すものと解するのが相当である。

2 しかしながら、前記のとおり、法人税法23条1項の規定が、支払法人の段階で課税済みの利益の配当について、これを受ける法人に重複して法人税を課すことを避けるために、また、同法23条の2第1項の規定が、源泉地国で課税済みの所得の配当に対して我が国が重ねて課税するという国際的な二重課税を排除するために、さらに、同法24条1項の規定が、法人の資本の払戻しの中に含まれる経済的にみて利益の配当と同一と考えられる部分について、上記各規定と同様の取扱いとするために、当該各配当の額及びみなし配当の金額(外国子会社から受けるものについては費用の額に相当する金額を控除した金額)を益金不算入としていることに鑑みると、同法は、利益剰余金を原資とする部分の剰余金の配当の額が、同法24条1項柱書きの「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれて同法61条の2第1項1号にいう有価証券の譲渡に係る対価の額として認識され、法人税の課税を受けることとなる事態を想定していないものと解される。したがって、同法の委任を受けて政令で定める上記「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算の方法に従って計算した結果、利益剰余金を原資とする部分の剰余金の配当の額が上記「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれることとなる場合には、当該政令の定めは、そのような計算結果となる限りにおいて同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であると解するのが相当である。これを法人税法施行令23条1項3号の規定についてみるに、同号の定める計算の方法に従って「株式又は出資に対応する部分の金額」を計算すると、払戻法人の簿価純資産価額が当該剰余金の配当直前の資本金等の額を下回る場合(被告主張の別表2―1によれば、本件はこの場合に当たる。)、すなわち、当該剰余金の配当直前の利益積立金額が0未満(マイナス)である場合には、減少した資本剰余金の額を超える「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」が算出されることとなるから(別紙の最下段の算式参照)、当該剰余金の配当が資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とするものであった場合には、利益剰余金を原資とする部分の剰余金の配当の額が上記「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」に含まれることとなり、ひいては「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれることとなる。この点、利益積立金額が0未満(マイナス)の状態の下で行われた剰余金の配当が利益剰余金を原資としていた場合に、当該利益剰余金を原資とする部分の剰余金の配当の額を課税済みのものとして益金不算入とすることが相当といえるかどうかは一応問題となり得るところであるが、当該利益剰余金の原資とされた流入価値が利益としての性質を有するものである以上、当該剰余金の配当の時点ではいまだ課税されていなかったとしても、いずれは課税されるものというべきであるから(本件においては、G社がH社から受けた6億4400万ドルの配当に係る利益がこれに当たると解される。)、二重課税を避けるための益金不算入という法人税法の趣旨はこの場合にも妥当するものと解される。したがって、法人税法施行令23条1項3号の定めは、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当への適用に当たり、当該剰余金の配当により減少した資本剰余金の額を超える「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」が算出される結果となる限りにおいて法人税法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であるというべきであり、この場合の「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」は、当該剰余金の配当により減少した資本剰余金の額と同額となるものと解するのが相当である。

 結果、本案件は、原告勝訴になりましたが、中小・零細企業の課税実務における重要な論点は下記です。

○「資本剰余金の額の減少に伴うもの」の意義等

(法人税法第24条1項五号)
【配当等の額とみなす金額】
第24条
法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この条において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあっては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の資本金等の額又は連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、第23条第1項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなす。

 五 自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第2条第16項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第61条の2第14項第一号から第三号まで(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)

 本件利益配当と本件資本配当は別決議であったのは判示から読み取れますが、

 ・それらが同日に決議された
 ・それらが同一の同意書に記載があった
 ・それらの効力発生日が同日であった
 ・それらが同日に送金されていた

という点が明らかでなくそもそも同時配当か?、という疑念もあるところです。
 他にもこの裁判例は諸論点があるものの、中小・零細企業の課税実務では、同時配当認定を回避するために、少なくとも上記4点は明らかに別時期に実施されたことが分かるようエビデンスの完備が必要です。
 原告であるX社(連結親法人)は外国子会社Y社(デラウェア州本社外国法人)から「利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当」を受け取りました。そしてその効力発生日は同日でありました。X社については、効力発生日は、同日であるものの決議は別日であったため、利益配当は益金不算入として、資本配当については有価証券譲渡損を計上しました。
 国は効力発生日が同日であることからその両者が資本の払戻しに該当すると指摘しました。当該考え方の基礎は以下にあります。
 「利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当」は資本の払戻しに該当するという根拠は「平成18年税制改正の解説(256頁)」において「資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して剰余金の配当を行った場合には、全体が資本の払戻しになる」とされており、当該立法の趣旨等を踏まえて判断されたものと考えられます。
 裁判所はこの国側の主張を認めたものの、利益剰余金と資本剰余金のプロラタ計算をした場合、資本の払戻し部分があると判断、国側の主張を排斥しました。「利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当」の全体を「資本の払戻し」としてプロラタ計算をおこなった結果、株式又は出資に対応する部分の金額(資本の払戻し部分)に利益配当が含まれる場合には、そのプロラタ計算を定める政令(法令231四)は違法・無効であると判示しています。
 また、この裁判例は限界事例であるとの指摘もあります。それはデラウェア州の会社法が日本とは異なるためです。
 本事件では、外国子会社の配当直前における利益積立金額がマイナスの状態で利益剰余金の配当が行われています。
 日本の会社法上では「その他利益剰余金(税務上の利益積立金額とは一致しませんが)」がマイナスであれば、当然、利益剰余金を原資とする剰余金の配当は不可能です(会社法第446条等、ただし、分配可能額までであればその他利益剰余金がマイナスの場合でもその他資本剰余金を原資とした剰余金の配当は可能です。)。
本件では税務上の利益積立金額がマイナスであったわけですが、この点デラウェアLLC法における剰余金の取扱いはどうなっているのでしょうか。

米国デラウェアLLC法18―607条(a)
 配当時において、配当の効力発生後に、当該LLCの債務総額が…LLCの資産の時価を超える場合は社員に配当を行ってはならない

 「配当後」と明記されているので前期末時点でマイナスであっても配当は可能です。

 

【出典書籍】
Q&Aみなし配当のすべて
<ロギカ書房>

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