配当の意義:「鈴や金融事件」「東光商事事件」

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 配当の意義について「鈴や金融事件」「東光商事事件」の実務上の利用方法を教えてください。
 両事件の判示は矛盾しており、一貫性がありません。学術書ではないため、それに言及するつもりは一切ありません。課税実務における両判決の利用方法を示します。
目次

解説

○鈴や金融事件
最高裁昭和35年(オ)第54号源泉徴収所得税並びに加算税決定取消請求上告事件(上告人東京国税局長)(棄却)(納税者勝訴)(TAINZ コード Z033―0957)

〔判決要旨〕
 所得税法上の利益配当とは、必ずしも、商法の規定にしたがって適法になされたものに限らず、商法の見地から不適法とされる配当(たとえば蛸配当、株主平等の原則に反する配当等)の如きも含まれるものと解すべきであるが、株主相互金融会社が株主に対して支払う優待金なるものは、損益計算上利益の有無にかかわらず支払われるものであり、株金額の出資に対する利益金として支払われるものとのみは断定し難く、取引社会における利益配当と同一性質のものであるとはにわかに認め難いものであるから、所得税法第9条第2号にいう利益配当には当らない。

この判示は、

・まずは原則(一般論として)蛸配当(違法配当)、株主平等原則に反する配当等、商法上不適法な配当であっても、所得税法上の利益配当に該当
・この事案については、株主相互金融会社の株主優待金は損益計算書上における利益の有無にかかわらず支払われるもので出資金額に対する利益金として支払われる性格を有しない。したがって、所得税法上の利益配当にはあたらない。そのため源泉徴収義務も生じないと示しています。

 これに関する考察は極めて多くあります。ここでは、代表的な見解をまとめたものとして以下を掲載します(引用かっこ内は一部筆者が改変しています。)。「課税当局の上告理由と上告審判決との結論の差に注目(するべき、所基通24―1 、24― 2 参照)。「配当」は借用概念論でしばしば例に挙げられるが、【商法におけるのと同じ意味で解釈される】が【商法上適法な配当に限定される】に直結するわけではない、という少し厄介な論理構造がある(蛸配当: 矛盾(が生じているのか?)。逆の結論のように見える(のが)東光商事事件である※ 」というものがあります。
※講義ノート本体:立教大学法学部&法科大学院租税法2016年浅妻章如
http://www.rikkyo.ne.jp/web/asatsuma/sozeihou.html から引用しています。なお、浅妻先生は、上記本文の後、「[発展]平18改正後の「剰余金の配当」は、「利益の配当」に関する本判決の射程外か?」とも問題提起しています。

○東光商事事件
最高裁大法廷昭和36年(オ)第944号所得審査決定取消請求上告事件(棄却)(確定)【株主優待金の性格/株主相互金融会社】(TAINZ コードZ053―2380)

〔判決要旨〕
⑴ 具体的にいかなるものを益金と認め、いかなるものを損金とするかは、単に益金または損金の性質を理論的に解明するだけでなく、さらに租税法の解釈上の諸原則や各個別的規定に現われた法の政策的、技術的配慮をもあわせ参酌しなければ決定できないものというべきである。
⑵ 仮りに、経済的、実質的には事業経費であるとしても、それを法人税法上損金に算入することが許されるかどうかは別個の問題であり、そのような事業経費の支出自体が法律上禁止されているような場合には、少なくとも法人税法上の取扱いのうえでは、損金に算入することは許されないものといわなければならない。
⑶ 株主の募集に際し、株式会社が株式引受人または株式買受人に対し、会社の決算期における利益の有無に関係なく、これらの者が支払った払込金または、代金に対し、予め定められた利率により算出した金員を定期に支払うべきことを約するような資金調達の方法は、商法が堅持する資本維持の原則に照らして許されないと解すべきであり、従って、会社が株主に対し前示約定に基づく金員を支払っても、その支出は、法人税法上は少なくとも、資本調達のための必要経費として会社の損金に算入することは許されないところといわなければならない。
⑷ 株主相互金融会社が株式買受人に対して支払う株主優待金は、実質的には、株主が払い込んだ株金に対して支払われるものにほかならず、会社から株主たる地位にある者に対し株主たる地位に基づいてなされる金銭的給付は、たとえ、会社に利益がなく、かつ、株主総会の決議を経ていない違法があるとしても、法人税法上、その性質は配当以外のものではあり得ず、これを上告会社の損金に算入することは許されない。
⑸ 株主相互金融会社の株主優待金は、会社が約定に基づき会社の決算期における利益の有無に関係なく、約定利率により算出した金員を定期に支払うものであって、配当とはその性質を異にすること上告会社の主張のとおりとしても、このような金員の支払は、法律上許されないのであるから、少なくともその支出額を必要経費として法人税法上会社の損金に算入することは許されないといわなければならない。

これに関する評釈は極めて多数ありますが、代表的なものとして、

「考察 本件の理由:違法な支出の損金不算入/株主たる地位に基づき支払われるものは全て配当

奥野反対意見… 銀行預金利子と同様であり、事業経費である。違法性は無関係。
松田意見……… 株主たる地位に基づく金銭給付は全て配当であり、違法性は無関係。

 ところで本件の直接の争いは【損金算入の可否】か【配当該当性】か? 
配当と利息費用という二元的構成は採れないのか? 本判決のratio decidendiが損金算入不可だけだとすれば、実は「配当以外のものではあり得ず」は傍論ということになるのかもしれない。
 違法支出の損金算入を一般に否定するという筋を採りたくとも、それが判例法理として固まっているかについては疑問の余地あり。支出の違法性が損金不算入に直結する訳ではないとすれば、損金不算入を補強するために配当に該当しないといいたくなるが、すると今度は(鈴や金融事件:会社の損益計算上の利益に基づかなければ配当でない)と本件(株主たる地位に基づく支払は全て配当)とが矛盾する(のではないか)?
 矛盾はないと無理やり説明するならば
…支払者と受取人とで同じ種類である必然性はない(?)」

というものがあります※ 。
※講義ノート本体:立教大学法学部&法科大学院租税法2016年浅妻章如
http://www.rikkyo.ne.jp/web/asatsuma/sozeihou.html から引用しています。

 本書は学術書でないため、租税法上の配当概念に言及するのは控えますが、課税実務での利用可能性として以下が考えられます※。
※租税法上の配当概念に関する問題提起をコンパクトにまとめたものとして小塚真啓「税法上の配当概念の過去・現在・未来」http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54379/20160623151314254108/sozei_800.pdf をお勧めしておきます。
また、租税法の配当は借用概念の理解に最適です。このオーソドックスな論点をコンパクトにまとめたものとして、佐藤英明「最高裁判決から見た租税法の解釈適用」https://www.tkc.jp/tkcnf/news/~/media/Tkc/tkcnf/news/docs/taxforum2018report_lc1.pdf をお勧めしておきます。

 分配可能額規制に違反した金銭配当・自己株式取得の場合については、下記の点につき留意が必要です。

 自己株式取得は資本等取引、会社財産の払戻しの性格を有することから、分配可能額による制限を受けます。しかし、分配可能額が不足しているにもかかわらず行った違法配当でも、会社法上有効とされています※ 。そのため、租税法でも配当として取り扱われます。
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_b8c2.html

 中小企業では、債権者が違法状態を訴えるケースはほぼ想定できないので、分配可能額がたとえゼロだったとしても、違法配当として問題視されることはまずないと思われます。つまり、自己株式の取得はそのまま有効になり得ます。この取扱いは金銭配当も同様です。

 仮に債権者がなく訴える状況になくても、取締役の任務懈怠責任等の会社法上の責任は生じます。これにつき、役員に対する金銭請求権という益金が法人計上される可能性もあります。しかし、従来の課税実務の取扱いは「そもそも違法配当自体が無効であるため(原始的無効)、それに係る益金は計上されない」とされてきました。つまり、そもそも違法配当が会社法上、有効か無効かで益金を計上すべきか、しないかの取扱いが全く異なるわけです。

 課税実務ではこの状況下においては、保守的に最悪なケースを考えるべきだと思われます。違法配当は会社法上、有効であり、それ自体に、先ほどの金銭債権請求権という益金が計上されたと仮定すると、当該金銭請求権については、中小・零細企業では回収されることはまずないため、その金銭債権相当額が役員給与認定される恐れがあるということです(定期同額給与、事前確定届出給与でないので当然損金不算入)。さらに源泉所得税も生じます。

 分割型分割においても、税制非適格に該当した場合、分割対価を株主に還流でき、さらに配当や自己株式取得のような財源規制もないため、場合によっては考慮すべき事項です。

 比準要素数0 、1 の会社が期末配当を行い、比準要素数0 、1 の会社から脱する方法があります。比準要素数0 、1 の会社というのは、往々にして債務超過状態にある会社であることが多いものです。このため、一見、配当ができないように思われますが、債権者が訴える状況にないということを確認した上で会社法上の違法配当をしても、租税法上も配当したことになるため、中間配当により、0 、1 の状態を脱することが可能です。

 比準要素数0 、1 の会社がその状態から脱するための別の方法として、決算期変更があります。例えば、毎期1,000万円程度の利益が出るような会社があったとして、節税対策を過度に行い、前々期末と前期末の利益が0 円となっていたとします。利益も出ていない、配当もしていない、とすると、比準要素数0 、1 の会社になります。この状況下において、株式を移動したい場合、決算期を変更します。決算期を変更してその期で利益を出します。

 

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【出典書籍】
Q&Aみなし配当のすべて
<ロギカ書房>

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