【解説】
下記が定石です。類書でも全く同じ内容の記載があります。法人株主が法人(子法人等)を売却する場合は、売却前に配当します。株主が法人の場合通常、利用します。個人株主の場合、配当所得が過大な税負担になるからです。
100%親子完全支配関係にある場合、子会社の含み益資産を親会社へ適格現物
分配する方法もあります。
売主会社株式評価額200、利益剰余金170、取得原価(簿価)10、法人株主が100%所有の子会社を売却、実効税率30%と仮定すると、このまま株式譲渡すると(200-10)×30%=57の法人税負担が生じます。そこで、親会社へ配当を170実施後、残額30で株式譲渡します。親子会社間では受取配当益金不算入の規定から、170は全額(株式所有割合によっては一部)益金不算入となります。譲渡益に対する法人税額は(30-10)×30%=6となります。消費税課税売上割合について、譲渡の対価の額の5%が分母に算入に算入されるため、実行前に当該シミュレーションを実行するのが通常です。
上記と全く同様の効果を及ぼすのが、自己株式取得スキームです。個人株主の場合、自己株式取得によるみなし配当課税(総合課税)が重い税負担となるため、利用しません。
法人株主が株式譲渡する前に、自己株式の取得をします。この際、みなし配当が生じますが、受取配当益金不算入によって課税されません。そして、分配可能額限度を超過した残りの部分を第三者に売却するわけです。
なお、後述の「令和元年12月12日公表「令和2年度税制改正大綱」では、下
記のような改正が入りました。
同大綱87~89頁、
1 子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避への対応(国税)
⑴ 法人が、特定関係子法人から受ける配当等の額(その事業年度開始の日からその受ける直前までにその特定関係子法人から受ける配当等の額を含む。以下「対象配当金額」という。)が株式等の帳簿価額の10%相当額を超える場合には、その対象配当金額のうち益金不算入相当額を、その株式等の帳簿価額から引き下げることとする。
という制度改正にご留意ください。
この制度はソフトバンクグループ等の海外M&Aを活用した節税スキームの防止措置として立法されたものですが、「そういったことを全く意図していないのに、偶然、当該配当が当該制度に該当して、思わぬ課税がなされた」ということは十分あり得ます。
この際、
だったとします。
このケースのみ今回の改正に該当しません。
「他から(主に海外株式を)買ってきて、配当して中身を空っぽにして、他へ売却」が今回の封じ込めの趣旨ですから、グループ内で設立した法人については適用対象外なのです。
したがって、上記のソフトバンクグループ租税回避スキームを長期的視点にたって実行することは可能です。上記の資本関係以外は全て今回の規制対象になるので、上掲の「思わぬ課税」にくれぐれも留意が必要です。
大綱レベルでは詳細まで確認できないため、今後発遣される政省令、法令解釈通達の動向に注視すべき改正項目です。
【出典書籍】
Q&A「税理士(FP)」「弁護士」「企業CFO」単独で完結できる
中小企業・零細企業のための M&A実践活用スキーム
<ロギカ書房>
記事に関する質問は一切受け付けておりませんので、ご了承ください。
ご質問がある場合は、こちら