日米の年金制度の比較

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 日本と米国の年金制度を簡単に記載し、その上で米国からみたクロスボーダー年金の課税上の留意点を簡単にまとめております。

Ⅰ.日米の公的年金と企業年金の課税の比較

 ※1.日本においては、平成30年に“公的年金等控除の適正化”の税制改正がありました。公的年金等控除は上限がなく、年金以外に所得がある高所得年金者にとっては手厚い仕組みになっているとの指摘もあり、公平性確保から公的年金等収入が1,000万円を超える場合の控除額は195.5万円が上限とされ、公的年金等以外の所得金額が1,000万円超の場合は控除額が引き下げられました。

 ※2.拠出時に所得控除された401(k)プラン等の掛金は含めない。

Ⅱ.米国における年金制度について

 米国における年金は、社会保障法(Social Security Act)第2編を根拠法として、社会保障庁(Social Security Administration)が運営主体となっています。

 米国も公的年金+企業年金が二階建となって制定されています。公的年金には【老齢・遺族・障害年金(OASDI: Old-Age, Survivors and Disability Insurance)】があり、支給開始年齢66歳(1954年以前生まれの者以降は支給開始年齢は段階的に引き上げ)で、 最低加入期間 10年相当、年5,640ドル(2020年)が支給額となります。

 そして、この公的年金という社会保障年金に上乗せされる企業年金として、【確定給付型企業年金プラン(Defined Benefit Plan: 以下「DBプラン」という。)】及び【確定拠出型企業年金プラン(Defined Contribution Plan: 以下「DCプラン」という】という大きく2つの企業年金形態があります。
 DBプランは、比較的古くからある企業年金の形態で、①加入者は一定の給付算定式によって給付額が予め約束されています。②拠出者は事業主のみです。
 DCプランは、1980年代以降、401(k)プランの登場によって急速に普及した企業年金の形態ですが、①給付額は拠出金合計額に対する加入者が選択した運用方法の実績によって後から決定されること、②拠出金は、加入者が行うものを基本としながら事業主からも一定の追加拠出を認めている等の特徴があります。

 この企業年金プランは法的に強制されていませんが、現実的には大企業を中心に企業は何らかの企業年金を有しています。
 企業年金制度のうちDBプランは、加入者に対して算定式に基づく一定の給付額が予め約束されていますが、2000年以降の株式市場の低迷や低金利の影響から「積立不足」の状況が見られました。しかし2006年年金保護法(Pension Protection Act of 2006)が成立したことで、DBプランについては積立ルールが厳格化され財政健全化が図られ、キャッシュバランスを明確化することで企業のプラン提供の意欲が失われないよう改革がなされました。
 また、DCプランについては、原則としてプランへの自動加入制度や、金融機関による加入者に対する投資教育を行ってきています。
 このように制度の活用を図ったことにより、企業年金が保有する資産額の趨勢は持ち直し、2019年第3四半期ではDBプラン3兆2,670億ドル、DCプラン8兆4,730億ドルとなってきています。特に、DCプランについては、2008年と2019年を比較すると約5兆ドルの増加となり増加傾向にあるようです。
 しかし、公的年金自体は財源が枯渇しており年金制度全般には急務な対策が迫られています。

(米国の退職資産の概要)

出所:海外の年金制度(厚生労働省)
グラフ :2019年海外情勢報告図2-2-17より転載
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/20/dl/t2-04.pdf

Ⅲ.米国を越境する場合の年金課税

 米国とのクロスボーダーによる公的年金受給の課税については、各国との所得税租税条約の規定に従い課税関係が決まります。

1).外国に居住し米国の支払者が支払う年金を受けとる場合
 このシチュエーションで年金を受け取った場合、米国の源泉徴収および申告のための有益な所有者の外国ステータスの証明書であるフォームW-8BENを記入し、米国の支払者に提出することで、租税条約に基づく米国連邦所得税(FIT)の源泉徴収の免除を請求することができます。条約の目的を有効にするには、W-8BENに米国納税者識別番号を記載します。
2).米国に居住し外国の支払者が支払う年金を受けとる場合
 このシチュエーションで年金を受け取った場合は、外国政府によって指定された方法で、適切な条約での源泉徴収免除を請求する必要があります。ただし外国政府や外国源泉徴収者が条約請求を拒否した場合は、その国に提出された所得税申告書等により請求を行います。さらに、外国の年金または年金から源泉徴収された外国所得税に対して、原則としては米国連邦個人所得税申告書に対して外国税額控除を請求することができます。所得の課税に影響を与える特別条項があるため、各条約の関連記事および条約の議定書(改正)も必ずお読みください。条約によっては利益が異なるため、各条約を注意深く見る必要があります。
3).租税条約による居住地判定
 租税条約に基づいて給付金を受ける資格があるかどうかを判断する際には、税務上の居住地を特定する必要があります(居住者の定義:条約第4条)。
 米国の場合は、居住地を特定するために次の各テストのガイダンスが参考になります。
■IRC § 7701(b)・・・
 グリーンカード実質的なプレゼンス、最年度は出版519の第1章、米国の外国人税務
 なお、居住地の判定に基づき、年金に関する条約がどのように適用されるかを決定し、条約国の一つであると判断した場合は関連条約による利益をよく参照する必要があります。
 各国の国内法を適用した後、両国の居住者(すなわち、二重居住者)である場合、タイブレーカー規則(条約の第4条)を適用することによって、単一の居住国を決定することができます。たとえば納税者の次のような状況から検討をします。

*どの国で利用可能な恒久的な家を持っていますか?
*どの国が個人として緊密であり経済的関係を持っていますか?
*どの国が習慣的な拠り所でしょうか?
*あなたはどの国で国民ですか?

 この判定により納税者が米国市民または居住者とされる場合、特段の例外がないかぎり米国市民または居住者として、米国の法律の下では世界中の所得が課税対象とされます。

4).外国社会年金
 ほとんどの所得税条約には、社会保障の支払いに関する特別な規則があります。一般的に、米国の条約は、社会保障の支払いは、支払いを行う国によって課税されるとしますが、米国市民または居住者の場合、外国の社会保障の支払いに課税される場合がありますので、特定の条約を参照する必要があります。
5).外国政府年金
 所得税条約には、政府サービスに関して支払われる年金に関する特別規則が含まれている場合もあり、米国市民または居住者が受け取った外国政府の年金は、対象となる可能性があることを念頭にいれておくことが重要です。
6).越境の年金拠出金に対する条約
 外国に居住する米国市民は米国の年金制度への拠出金に対して外国で有利な税制上の取り扱いを受ける場合もあり、または外国に居住する米国市民が外国の年金制度に対する拠出金に対して米国で有利な税制上の取扱いを受けることを認める場合もあります。
 国境を越えた年金拠出金や給付に関する米国の条約は比較的少なく限られているため、このような場合はあらためて確認する必要があります。

※上記内容は2021年3月時点での簡単な概要となりますため、個別的な詳細についてはお尋ねください。

*The Taxation of Foreign Pension and Annuity Distributions
*About Form W-8 BEN, Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner for United States Tax Withholding and Reporting (Individuals)
*Substantial Presence Test
*Alien Residency – Green Card Test
*About Publication 519, U.S. Tax Guide for Aliens
*About Publication 560, Retirement Plans for Small Business (SEP, SIMPLE and Qualified Plans)
*Social Security Administration(米国社会保障庁)

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