本問は岡野訓他『実務目線からみた税務判断―実務で直面する厳選20事案』大蔵財務協会 (2014/09)P.86〜100を参照しています。
とはいえ、実務上は、退職時点の状況に応じて判断されるだけのものと思われます(現金がない場合、現金支給がそもそもできない)。基本的な課税関係や諸手続きに留意が必要なだけです。
【解説】
オーナーに財産を移転する方法として、売買と役員退職金の現物支給では、下記を総合勘案します。
1.土地について
○売買の場合
○現物支給の場合
登録免許税と不動産取得税は軽減税率の改正(延長含む)が頻繁に入るため、実務では、実行時の税率を確認します。本稿脱稿時点においては、土地の場合、登録免許税の軽減税率適用による税負担軽減効果が高いため、売買の方が有利になる可能性があります。
2.建物・車両・ゴルフ会員権について
○売買の場合
○現物支給の場合
つまり、2.においては、現物支給の方が有利です。
【退職金の現物支給と現物配当の相違】
上表における(*)の補足です。現物支給では、総会決議があるかないかで消費税課税区分が変更します。この理由づけには様々なものがあります。下記の考え方が最も単純です。役員報酬等の決定方法については、会社法第361条第1項を確認します。
(取締役の報酬等)
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
現物支給する場合は、総会決議によって、その具体的な内容、すなわち、支給する現物資産の種類、金額、支給日等々の決議が必要です。よって、株主総会の決議なき場合、現物支給は代物弁済による資産の譲渡に該当します。代物弁済に係る消費税の取扱いは下記から読み取れます。
事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
【消費税基本通達5-1-4】
法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「代物弁済による資産の譲渡」とは、債務者が債権者の承諾を得て、約定されていた弁済の手段に代えて他の給付をもって弁済する場合の資産の譲渡をいうのであるから、例えば、いわゆる現物給与とされる現物による給付であっても、その現物の給付が給与の支払に代えて行われるものではなく、単に現物を給付することとする場合のその現物の給付は、代物弁済に該当しないことに留意する。
上記より、株主総会決議がない場合、代物弁済に該当し、資産の譲渡に係る取引なので課税取引に該当しますし、ある場合、給与扱いですから課税対象外です。国税OBの解説集(の一部)は、代物弁済に該当し課税取引と断定的に記載してあるものも見受けられますが、これは、中小・零細企業の実情を前提とした上での解説と思われます。
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【出典書籍】
Q&A「税理士(FP)」「弁護士」「企業CFO」単独で完結できる
中小企業・零細企業のための M&A実践活用スキーム
<ロギカ書房>
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