「暗号資産」への課税(番外編) - 火星では -

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 昨年、商業宇宙船として初めて「クルードラゴン」の打ち上げに成功をすることができた米国の宇宙ベンチャーであるスペースXの最高責任者イーロン・マスクは、火星への移住計画を進めています。

■イーロン・マスクは2022年に火星へ飛行開始することを目標にしています!

 昨年12月25日に計画の中のひとつとして、火星では、暗号通貨「マーズコイン」を使用したいことをTwitterで発言しています。通貨についても何歩も先の話をしているのです。実のところ彼は仮想通貨でも資産を形成しています。
 そして、イーロン・マスクは火星では、直接民主主義になるか、もしくは法律の統治を受けないだろうと述べています。
 下記はイーロン・マスクの考え方のサマリーを加工して記載しています。


【NASA火星探査URL.】
https://mars.nasa.gov/mars2020/
(source : NASA)

Ⅰ.アウトライン

 火星への移住者にとっては、地球基準の紙幣を使用するより、仮想の口座を利用することのほうが理に適っているのかもしれません。なぜなら火星に現金を移動させるのは非現実的なことに思えますし、その先で行なわれる取り引きを円滑に行うための合理的な方法も今のところ検討できない点と法定通貨を使用する必要もないからと言えそうです。
 移住者たちは火星への長旅の間、そして着後の生活が始まった後、おそらく全員共通して使うことのできる移住者専用の取引口座を持つことになるとイーロン・マスクは述べています。
 このように火星で暗号通貨が利用されることになった場合は、課税関係が成り立つのでしょうか。

Ⅱ.火星で暗号通貨を使用する

1)通貨取引は地球に行ったり来たりできるでしょうか?
 そして果たして仮想口座を用いることで、地球上との取り引きも可能になるのでしょうか? この点については、さほど難しくないかもしれません。
 専用電波を使って送受信を行えば、取り引きのデータは最大約20分程度で地球へ届くものと考えられます。すでに銀行や取引決済業者に用いられている「ACH(Automated Clearing House)送金」のシステムは、精巧なインフラを備えています。そして多くの銀行が取り引きに用いるデータは、可能な限りシンプルなカタチとなっています。小さなデータサイズであれば問題なく処理できるシステムが構築できてきているからです。

2)赤い惑星“火星”での暗号通貨のメリットは?
 暗号通貨には大きな利点があります。火星の入植者が地球基準に基づく紙幣の種類ではなく仮想口座を持つという考えは理にかなっています- 火星に現金を持ち込むのは現実的ではなく、それらの取引のいずれかが調整されるような合理的な方法を想像する事は難しいです。しかし、移住者は、火星への長い旅行と地球の表面の両方で動作する専用のアカウントを持っている可能性が高いですので両方を使い分けできます。

3) 赤い惑星“火星”に住む人々にとって、暗号通貨は何を意味するのでしょうか?
 また伝統的な通貨は他にありますか?
 もしイーロン・マスクが言うような直接民主主義になるとした場合は、少なくともしばらくの間、人々は購入のためには通貨を必要とする理由はないかもしれません。この場合は、
暗号通貨は意味をなさない、もしくは利用しない場合もあります。
 例えば、紙幣が少ない地球上の場所では、人々はしばしば小さなキャンディー、ボタン、または中世では塩やスパイスなどを通貨の代わりにすることもあったので、火星の近未来ではこのような通貨も想像することができるかもしれません。

4)赤い惑星“火星”での暗号通貨の現実味はあるのでしょうか? 
 星に移住するとなると、人々が生活するための資源を厳密に管理する必要が生じます。そして、生活必需品をどのように火星への輸送を行うのかは現時点では明確になっているわけではありません。
 そういった現状を考えてみると、実際に経済取引が生じて火星で通貨がすぐに必要になるようなことは、現実より遥か先をいく絵空事で終わる可能性も否定できないとの見解があります。

Ⅲ.火星での課税関係

 国境を越える経済活動に対する課税国際課税における課税原則は、国際法をもとにした課税管轄権で規律されています。現在の国際課税においては課税管轄権に基づいた「居住地原則(※1)」と「源泉地課税(※2)」が基本原則になっていますね。
 しかし、火星では国際法が適用できないため、課税の空白地帯が発生す可能性が否めません。
 もし、仮に暗号通貨を利用した人に課税するとした「属人主義」にした場合でも、火星で生まれた人は国籍がなく属人主義が適用できず、または人間以外の別の物体が経済活動をするかもしれません。そうすると国際法の課税の対象にできない(※3)事実も発生しそうです。

※1 国籍や居住の事実に基づく「居住地管轄」
※2 課税対象となる領域内の経済活動や財産の所有等の事実に基づく「源泉管轄」
※3 二つの基準があるが、これらのいずれが妥当な基準であるか、またどれを優先すべき
かは困難なものと考えられている。課税対象となる個人や法人等の経済活動と領域との「結びつき」の存在を前提としていることに変わりはなく、ある者の経済活動と国家のサービスとの間に、何らかの「結びつき」がある場合には、その者に対するその国家の課税権は正当化されると考えられる。

Source)
*Elon Musk Says Mars Settlers Will Use Cryptocurrency, Like ‘Marscoin’/By Caroline Delbert
* 原 省三「国際課税のあり方と今後の課題について」税務論叢/国税庁税務大学校

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