デュアル・ステイタスになった場合

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前回の納税義務の続きとしまして、日米2か国の納税義務者と判定された場合の特別な取り扱いについて記載します。

1.デュアル・ステイタス

企業から出向等した場合は、その初年度や帰国年度において、米国居住期間と米国非居住期間の両方のステイタスが発生します。これをデュアル・ステイタス(二重身分)と呼びます。この場合の所得計算は特別になります。

① 申告フォーム

上記のように年度末が米国居住者であった場合には、IRSにForm1040という書式で申告しますが、その際Form1040NRをステイトメントとして添付する必要があります。 逆に年度末が日本であった場合はIRSにはForm1040NRを申告し、その際Form1040をステイトメントとして添付する必要があります。

②デュアル・ステイタス申告をする場合は次のような点が制御されます。

a. 標準所得控除は使用できず、個別所得控除だけになる。
b. 夫婦合算申告は選択できない。
c. 独身世帯主申告での税額計算もできない。
d. 配偶者控除や扶養控除などは米国居住者期間に限定される。
e. Earned Income Creditのような特定税額控除の適用はない。

③ 税額計算

デュアル・ステイタス申告における税額計算は、非居住者期間(A)と居住者期(B)の期間のUSECIを合計し、所得控除後に税率をかけ税額を算出します。非居住者期間(A)のFDAPの所得は原則30%を乗じて計算します。
※USECI…「米国ビジネスに関連する所得」
Income effectively connected with U.S. trade/business
※FDAP…「固定的、確定的な期間に対応する所得」
Fixed or determinable annual periodical income

2.日米租税条約によるタイ・ブレイクルール

 前回で記載したように、それぞれの国内法に基づく判定により、日米2か国に納税義務が生じることが生じることがあります。このような場合は日米租税条約を適用することができます。

① タイ・ブレイクルールについて

租税条約第4条には租税条約上の居住者の定義が規定され、第3項には双方居住者がどちらの国の居住者になるかの順番が次のように規定されています。

a. 恒久的住居のある国の居住者とみなされるが、それが双方にある場合は、人的・経済的関係がより密接な国の居住者とみなされる。
b. a.で決定できない場合は、常用の住所が所在する国の居住者とみなされる。
c. b.で決定できない場合は、国民である国の居住者とみなされる。
d. c.で決定できない場合は、両国の権限のある当局の合意による。

となります。

② Form8833の提出

 タイ・ブレイクルールの租税条約の適用を受ける場合は、Form8833をIRSに提出する必要があります。
(Treaty-Based Return Position Disclosure Under Section6114 or 7701(b))

③ 注意点

ただし、タイ・ブレイクルールについては、米国市民とグリーンカード保有者は適用外です。
また、タイ・ブレイクルールで米国非居住者とされても、米国内の源泉所得は課税されます。

3.米国における外国人の納税義務者の選択

前回と今回にわたり、納税義務者の判定と選択について記載してきましたが、居住者か非居住者かによって、実際のところ米国においては、
<課税対象所得> <税率> <控除できる項目> <人的控除額> <申告様式>
にそれぞれに大きな違いが出ます。従いまして、どちらかを選択できるような場合はその違いを明確に認識しておくことが必要となります。

See:Publication 519U.S. Tax Guide for Aliens Page32 Dual-Status Tax Year
:IRC Sec.871 Tax on Nonresident Alien Individuals
:IRC Sec.871(d) Election to Treat Property Income as Income Connected with U.S. Business

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