所得税基本通達59-6の改正

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【質問】
 令和2年8月28日に所得税基本通達59-6が改正されたと聞きました。本通達の改正は、令和2年3月24日付最高裁判所判決を受け、同通達の明確化を図るためのものであると理解しています。
 そのため、改正前の内容と変わらないという理解でよろしいでしょうか。
【回答】
 同通達の内容だけを見ると、改正前の内容と変わらないように思われます。しかしながら、パブリックコメントに対する国税庁の回答によると、今までの取扱いと異なるものが公表されているため、今後の実務において留意する必要があります。

【解説】

1.従来の解釈

 評価会社が保有する子会社株式の評価では、法人税基本通達4-1-6において、評価会社が保有する非上場株式の評価について規定されていないことから、課税上弊害がある場合を除き、評価会社が保有する非上場株式の評価については、財産評価基本通達により算定した評価額を用いるべきであると解説しました。この解釈によれば、評価会社の子会社を小会社とみなし、かつ、当該子会社が保有する土地等及び有価証券を時価で評価する必要はないということになります。なお、評価会社が保有する子会社株式の評価では、法人税基本通達の解説でしたので、所得税基本通達59-6については解説しませんでしたが、所得税基本通達についても、同様の解釈をしていた実務家が多かったと思われます。
 さらに、類似業種比準価額の計算上、乗じる斟酌割合については、評価会社が大会社又は中会社であったとしても、小会社に該当するものとして取り扱っていた実務家が多かったと思われます。

2.パブリックコメントに対する国税庁の回答

 令和2年8月28日に公表された「『所得税基本通達の制定について』(法令解釈通達)の一部改正(案)(所得税基本通達 59-6《株式等を贈与等した場合の「その時における価額」》)に対する意見募集の結果について」では、7つの質問に対する回答がなされており、このうち、以下の3つについては、今後の実務に与える影響が大きいと思われます。

・ 類似業種比準価額の計算上、乗じる斟酌割合については、評価会社が大会社の場合は 0.7、中会社の場合は0.6、小会社の場合は 0.5 になります。今までは、小会社とみなすことを理由として、斟酌割合を0.5としていた事例が多かったことから、類似業種比準価額が高くなると思われます。

・ 発行会社が子会社等の株式を有しており、当該発行会社が当該子会社等の中心的な同族株主に該当するときは、当該子会社等が財産評価基本通達 178 に定める小会社に該当するものとして、その例により当該子会社等の株式の評価を行います。そのため、子会社が大会社に該当する場合であっても、純資産価額方式又は折衷割合を1;1とした併用方式により評価を行うことになります。

・ 発行会社の株式を純資産価額方式で評価する場合において、当該発行会社が有する子会社等の株式を純資産価額方式により評価するときは、当該子会社等が有する土地等又は上場有価証券を譲渡又は贈与の時における価額により評価を行います。そのため、路線価や最終価格の月平均額を用いることはできません。

3.今後の実務への影響

 なお、上記の取扱いについては、今後、国税庁ホームページに解説を掲載する予定であるとされています。
 上記の取扱いに従って評価を行った場合には、従来に比べて高い評価額になる可能性が高いと思われます。パブリックコメントに対する国税庁の回答が公表されたのは令和2年8月28日であることから、その前の取引に対してまで、上記の取扱いを強制すべきではないと思いますが、少なくても、同日以後の取引については、上記の取扱いに従って処理する必要があると思われます。

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