独立行政法人中小企業基盤整備機構の中小企業倒産防止共済(以下、「セーフティ共済」といいます)については、所得金額の多い法人の多くが加入しています。
また、法人ほどではないにしても、所得金額の多い個人も加入している場合もあります。プロのスポーツ選手など、所得額が大きく、年度による所得変動が大きい人、特に今現在の所得は高いが、今後所得の減少が見込まれる場合などは加入のメリットが高く、加入している場合も多いのではないかと考えられます。
では、個人でセーフティ共済に加入している者に相続が発生した場合、相続税の課税関係はどうなるのでしょうか。
セーフティ共済加入者が死亡した際には、共済契約が承継される場合と共済契約が解除される場合があります。事業を承継した相続人がいる場合、相続人の一人がその共済契約を承継することができます。事業の承継者がいない場合や共済契約の承継を望まない場合は、共済契約は解除され、相続人の一人に解約手当金が支払われます。
共済契約を継承する場合は、相続人が承継する共済契約に関する権利が相続財産となり、その評価額は相続開始時の解約手当金相当額となります。共済契約を承継しない場合は、当該共済契約の解約手当金の支給を受ける相続人の相続財産となり、その評価額は解約手当金の額となります。
結果として、いずれの場合も死亡時点での共済契約金の解約手当金相当額が財産評価額となります。また、これらは本来の相続財産であり、遺言がない場合は遺産分割協議で取得する相続人を決める必要があります。申告期限までに協議が調わない場合は、未分割財産として共同相続人が各相続分に応じて申告することになります。
共済契約を継承する場合は、所得税の課税関係は生じませんが、共済契約を解除する場合は、解約手当金の額が被相続人の死亡年度の事業所得に係る収入金額に算入されます。被相続人の死亡年度の準確定申告を計算した結果、所得税額が算出されれば、その額は、債務控除の対象となります。なお、共済契約を継承した後、その共済契約を解約した場合は、解約金相当額は、継承した相続人の事業所得の収入金額に算入されます。
また、共済金の貸付けがある場合は、共済契約を承継する時は、承継した相続人が貸付金の返還義務を引き受けます。解約手当金を受ける時は、解約手当金の額からその貸付金の額を控除することになります。このため、当該貸付金の額は、承継した相続人又は解約金を受けとる相続人の債務控除の対象となります。
共済契約が解除された場合は相続人に解約手当金が振り込まれるため、当該金銭が相続財産であるという認識はあるでしょうが、共済契約を承継する場合は、何らの金銭の移動もないため相続財産であるという認識が薄いと考えられます。このため、被相続人が個人事業を行っており事業継続中に死亡した場合には、セーフティ共済の加入の有無を必ず確認する必要があります。また、共済契約を引き継がない場合は、準確定申告の事業所得において、解約返戻金の計上漏れに注意する必要があります。