不動産M&A の税目別採用パターン

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不動産M&Aの税目別の採用すべきパターンについて教えてください。
不動産M&Aとみなし配当①不動産M&Aとみなし配当②で、不動産M&Aにおける組織再編成とみなし配当が絡むケースについて、基本的な考え方を解説しました。本問は、不動産M&Aに関するタックスプランニングについて言及するにとどまり、みなし配当という本書の性格から外れます。興味のある方だけご覧ください。

【解説】

 不動産M&Aの税目別の採用すべきパターンは主に下記のように区分されます。
 下記では諸税を検証していきます。なお、課税実務では下記のほか、印紙税も考慮対象となります。また、補問1の2パターンの他、特別な対策を施さないパターンを第3パターンと定義します。すなわち、第1パターン、第2パターンのように、不動産を切り分けず、不動産を所有したまま会社全体につきM&A実行というパターンです。
 不動産M&Aにおけるタックスプランニングは下記の諸税を順に検証し、総合勘案することとなります。当然、当該不動産のスケールによってはプライオリティは前後します。

⑴ 法人税等(基本編)

 不動産M&Aにおけるタックスプランニングの要であり、最初にこれをシミュレーションすることになります。大きくは下記のように区別されます。

 表の1に該当した場合、第3パターンを採用することを検討します。M&A対象事業に含み損が生じているため、法人税等が生じない(もしくは低い)からです。
 表の2に該当した場合、下記の2パターンについて検証が必要となります。
まずは第3パターンの採用です。この場合、法人税等の課税は生じます。この際の税負担軽減は、通常の節税対策、すなわち、資産の含み損実現、簿外債務顕在化、タックスシェルター等の活用(筆者はここではいわゆる「節税商品」を念頭に置いています)、買換圧縮記帳等々を採用するだけです。
 もしくは第2パターンの採用です。この場合、M&A対象外事業の含み損が顕在化させ、それを繰越欠損金に化体させることになります。それから、不動産と繰越欠損金をセットで会社分割を実行すれば、買主で繰越欠損金効果を享受することが可能となります。
 この手法につき、M&A対象外事業(要するに不動産以外)から生じた含み損を顕在化させた繰越欠損金を不動産と一緒に恣意的に移転するのはどうか、という疑問を有する読者もいると思います。
 上記の表は説明の便宜上、M&A対象(不動産)とそれ以外とで区別していますが、含み損を顕在化させるまではあくまで1つの法人内部の話であり、その法人のうち会社分割により、何を切り出すかは会社の任意です。すなわち、恣意性の介入という次元の論点はそもそも生じません。
 この第2パターンは、上述のとおり、分社型分割で一旦、100%子法人になった、分割承継法人をオーナーに売却することになります。このため、分割承継法人価値相当分が分割法人に加算されることとなります。すなわち、分割法人の価値は理論上、毀損しません。したがって、この状態のまま、分割法人株式を売却した場合、オーナーに係る譲渡所得税が多額になる可能性があります。そこで、第3パターンとの有利・不利シミュレーションか、課税実務では必須となります。
 表の3に該当した場合、第1パターンが王道といえます。第1パターンの解説で述べたとおり、平成29年度税制改正における税効果がこの場合において最も恩恵を受けるからです。
 オーナーは譲渡所得税課税が当然なされます。プレM&Aにおけるタックスプランニングにおいて、会社分割により移転する資産、負債は、会社の任意で決定して問題ないため、オーナーがネットキャッシュで受領したい金額を予めヒアリングし、移転資産(不動産)、移転負債(預かり保証金等)の金額を決定することとなります。当該差額が譲渡対価相当となります。
 表の4に該当した場合、売主において譲渡損を利用したいというインセンティブがあれば、第3パターンを採用することになります。一方、買主において譲渡損を利用したいをいうインセンティブがあれば、第2パターンを採用することになります。

⑵ 法人税等(繰越欠損金がある場合)

 表の1に該当した場合、第3パターンと第1パターンの有利・不利判定が必要となります。
 買主は売主会社株式が繰越欠損金ある場合、当該繰越欠損金とセットで株式を取得した方が有利になるケースがあるからです。もっとも、あくまで課税実務におけるシミュレーション上の肌感覚となりますが、非常に多額な繰越欠損金を移転していなければ、期待するほどの税効果は出現しない場合が多いと考えます。
 表の2に該当した場合、第3パターンでは、不動産の含み益に係る譲渡益と繰越欠損金の相殺が可能となります。また、第2パターンでは、上掲と同じように繰越欠損金を更に膨らませてからのセット移転が可能となります。
 表の3 に該当した場合、第3パターンでの譲渡益と繰越欠損金を単純に相殺すればよいこととなります。仮に、それでは繰越欠損金が足りない場合、はじめて、第1パターンを考慮すればよいこととなります。これも上掲までと同様で繰越欠損金に化体させてからセットで移転させるだけです。
 表の4に該当した場合、第3パターンでは、繰越欠損金が単純に増加するため、売主会社では当該繰越欠損金の利用枠が増加します。一方で、第2パターンを採用した場合、法人税等(基本編)と同様の結論となります。

⑶ 不動産取得税

 課税実務では一般的に上記、法人税等の次に検討されることとなります。しかし、不動産スケールによっては順番が入れ替わります。当然ながら、第3パターンでは不動産取得税の非課税要件を回避する余地はないため、第1パターン若しくは第2パターンを採用したときのみ、検討対象となります。

⑷ 登録免許税

 課税実務では法人税等、不動産取得税の次に検討されます。第1パターンにおいては、M&A対象外の事業が所有する不動産に課税されます。第2パターンも同様です。一方、第3パターンでは、対象事業に含まれる不動産に課税されます。
 その他の留意事項としては下記が一般的でしょう。
 法人が短期所有の土地を保有する場合の他、土地は長期保有であっても土地保有会社の株式を短期間で売買した場合も適用対象になるため、オーナーが他の株主から株式を取りまとめて買手にまとめて売却する場合、土地譲渡類似株式等の短期譲渡所得課税の判定が必要となります。
 下記のいずれかに該当する株式を、下記の一定の条件で譲渡した場合には、短期譲渡所得課税になります(措置法32②、措置令21③)。

【土地譲渡類似株式等(次のいずれかに該当する株式)】
・株式発行法人の総資産価額の70%以上が、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下の土地等である場合のその株式
・その年の1月1日において所有期間が5年以下の株式で、かつ、その発行法人の総資産価額の70%以上が土地等である場合のその株式
【一定の条件(次のいずれかに該当する譲渡)】
・その年以前3年以内のいずれかの時において、その年に株式を譲渡した者を含む特殊関係株主等の持株割合が30%以上であること
・特殊関係株主等が、その年において発行済株式の5%以上の株式を譲渡し、かつ、その年以前3年以内において15%以上の株式を譲渡していること

 上記に該当しても必ずこの取扱いをしなければならないわけではありません(例外規定、措置法32、措置令21)。
 また、適格分割型分割+清算スキームに係るみなし贈与の課税関係という典型論点もります。本書の性格上、ここでは詳述しませんが、一定のスキーム、要件のもとでは、みなし贈与の発動リスクは比較的高いものと考えます。

(参考文献)
佐藤信祐『不動産M&Aの税務』(日本法令、2019年)
朝長英樹(編著)『会社分割実務必携』(法令出版、2014年)
伊藤俊一『Q&A「税理士(FP)」「弁護士」「企業CFO」単独で完結できる中小企業・零細企業のためのM&A実践活用スキーム』(ロギカ書房、2020年)
伊藤俊一『みなし贈与のすべて』(ロギカ書房、2018年)

 

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【出典書籍】
Q&Aみなし配当のすべて
<ロギカ書房>

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