遺留分侵害額請求権への変更に伴う税務上のリスク

民法

 民法の改正に伴い、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている従前の規定を見直し、令和元年9月1日から遺留分を侵害した相続人等に対しては、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求出来るとされました。

第千四十六条
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

 これにより、争いがある相続人が不動産や同族株式などを共有することで生じる、物件管理、会社運営、財産の処分などがスムーズに進まないといった問題を回避できるようになりました。また、遺留分を請求した相続人についても、取得したくない不動産や同族株などを渡されるリスクが無くなりました。

 しかしながら、税務上の新たな問題も懸念されます。従前の遺留分侵害請求では、相続財産について請求者に物件的効果が生じるため、不動産や株式などの相続財産の一部を請求者に渡したとしても、そもそもその財産は請求者が相続により取得したものであり、譲渡益課税の問題は生じませんでした。しかし、新たな遺留分侵害額請求権では、請求者と請求を受けた者との間に生じるのは、金銭債権・債務の関係です。このため、相続で取得した財産であっても、請求者に渡した場合、請求を受けた側は相続により取得した財産を代物弁済により渡すことになり、遺留分侵害額に係る債務の消滅額が譲渡による収入金額となり譲渡益課税の問題が生じます。

 所得税基本通達33-1の6(新設)に以下のように記載されています。

33-1の6 
民法第1046条第1項《遺留分侵害額の請求》の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の基因となった遺贈又は贈与により取得したものを含む。)の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。

 渡すべき金銭があれば問題ないでしょうが、金銭が用意できなくて、相続財産である不動産等をそのまま渡す場合や第3者にその不動産等を売却してその金銭を渡す場合には、譲渡益課税の税金は請求を受けた側が負担することになり、その分実際に取得する相続財産が減ります。
 また、主たる財産が同族株式でその株式について納税猶予の特例を受けている場合は、影響がより深刻になると考えられます。金銭の支払いが不可能で同族株式を請求者に移転すれば、それは納税猶予の打ち切り理由である対象株式の譲渡に当たると考えられるからです。

 遺言を作成し高額な同族株式を相続させる場合などは、遺留分侵害額請求がされる可能性の有無、侵害額の金銭での支払いが可能か等、十分な検討が必要です。

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