相続税や贈与税の課税を行う場合において、財産の評価は財産評価基本通達(以下評価通達)に基づき行います。
但し、評価通達6項に、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する」との規定があり、行き過ぎた節税策にはこの通達が使われる場合があります。
令和元年8月27日の東京地方裁判所の判決でも、この通達が適用され評価通達で評価して相続税の申告をした納税者の主張が退けられました。
被相続人は相続開始の3年5か月前に甲賃貸用不動産を約8億3千万円で取得、相続開始の2年6か月前に乙賃貸用不動産を約5億5千万円で取得し、購入資金として銀行から合計約10億円を借り入れました。
相続税の申告においては、評価通達に基づき両不動産を約3億3千万円と評価し、さらに小規模宅地の特例を適用したうえで、借入金10億円を債務控除した結果、従来所有していた財産を含めても相続税は0として申告しました。なお、相続人は乙不動産について、相続開始の9か月後に約5億1千万円で第三者に売却しています。
これに対し税務署側は評価通達6項を適用し、鑑定評価額(甲不動産:約7億5千万円、乙不動産:約5億2千万円)による評価で更正処分を行いました。
東京地方裁判所は、判決で以下のように述べています。
②被相続人は、90歳、91歳の時に各不動産を多額の借り入れをして購入した。
③本件不動産の購入がなければ相続税の課税価格は6億円を超えていた。
④借入金の銀行の稟議書に相続税の負担を減少する目的での購入であったと記載がある。
以上の事実関係の下で、評価通達を形式的に採用すると、他の納税者との間で租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達以外の評価方法で評価することが許される、として国(税務署)の主張を全面的に認めています。
収益用不動産を購入し評価差額を利用して節税するスキームは一般的に使われています。評価差額が発生する理由は、賃貸用不動産なら建物は貸家評価、土地は貸家建付地評価の減額ができますが、収益性の高い不動産なら実勢の取引価格ではそのような減額は発生しないことが主な理由です。
また、土地の評価水準は公示価格の80%、建物の固定資産税評価額は実際の建築費の5~6割の水準であること、都心部の公的土地評価(公示価格等)は実勢価格と比べ低い水準であることなども理由の一つです。
相続開始直前に不動産を購入して、相続後すぐに売却した場合、6項が適用された事例は今までもありましたが、相続開始の3年5か月前とやや期間がある本件で6項適用が認められたのは驚きです。
今後は、不動産取得を使った節税スキームであっても、不動産投資の事業性など経済合理性の観点をより考慮する必要があるでしょう。