税務実務に関わる場合、税法以外の法律も理解しておく必要があるわけですが、その中でも特に、民法をベースにした「委任」と「請負」の違いは知っておかなければなりません。
本論点については複数回に分けて、委任と請負の違いから、税務実務に関わる影響について解説します。
第1回となる本稿では、まず混同されがちな「委託」「委任」「請負」の違いについて全般的に解説します。
なお、同様の論点から、税理士・会計事務所が税務申告時に併せて提出する「税務代理権限証書」の法的効力については、「税務代理権限とは法律的にどのような権限なのか?」を参照してください。
「委託」とは何か?
一般的には、他者(他社)に対して仕事を発注する際には、「業務委託契約書」が締結されることになります。これはその名の通り、「業務を委託する」ことを約した契約内容なのですが、この「委託」という言葉は広い意味合いを含んでいます。
「委託」とは、当事者以外の者に業務を依頼すること全般を指しており、ここにいう「業務」とは、記帳代行業務などの事務作業や、自宅を建ててもらうことなど、かなり幅広い範囲を指していると理解してください。
法律上はこの「委託」という行為・内容は2つに分かれて、「委任」と「請負」が存在することになります。ですから、「委託」とは「委任」と「請負」をまとめたものになります。
「業務委託契約書」とはいっても、その内容から「委任なのか?」「請負なのか?」、もしくは「委任・請負の両方を含むのか?」によって約する法律行為は相違します。
「委任」とは何か?
「委託」と「委任」は似た言葉ではありますが、上記のとおり、あくまでも委任は委託の一類型と理解してください。
委任とは、当事者以外の者に法律行為や事務的な処理を、自分に代わってしてもらうことを指しています。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
税理士・会計事務所における典型的な委任契約・業務は、税務調査の立会い(業務)でしょう。
納税者自身が税務・会計に精通していないことから、納税者の委託に応じて税務調査の立会いをするのが税理士(の独占業務)で、これは納税者に代わって税務署(調査官)に答弁等をすることから、委任(行為)に分類されます。
「請負」とは何か?
一方で「請負」とは、当事者以外の者が「完成・結果を出すことを条件とした業務」を引き受けることをいいます。
完成を条件とした業務とは、例えば「建物を建ててもらう」という委託内容で、これはあくまでも、委託した内容・条件の建物を完成させ、引渡すことが条件ということです。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
税理士・会計事務所における典型的な請負契約・業務は、記帳代行(業務)でしょう。
顧問先・関与先が提示・提出した帳票類等から、顧問先・関与先に代わって会計処理を行うことによって、月次の試算表や決算書を作成することを委託されていることから、試算表・決算書を完成させることを約していることになります。
報酬の請求権が違う
このように「委任」と「請負」をあえて法律上区分する理由の1つとして、報酬の請求権が相違するというビジネス上の重要論点があります。
委任の条件は、何かを完成させるもしくは達成することではないため、「委任契約」を結んだ時点で報酬が発生することが原則です。
例えば、税務調査の立会い依頼(委任)を受託した場合、一般的には「1日当たり○万円」などの報酬を約することになりますが、税務調査の立会いをするという行為そのものが委任契約に該当することから、税務調査の結果や追徴税額等にかかわらず、事前に約した報酬を請求することができます。
言い換えれば、委託した者が期待した通りの成果でなかったとしても、受託者が適切な業務を遂行した以上は、報酬が発生するのが委任ということです。
一方で請負は、完成や達成が条件となりますから、委託者が求めた成果物の完成や、約した成果が出てはじめて報酬が発生するということです。
「建物を建てる」という委託をした場合、設計・依頼した通りの建物が完成・引渡されてから報酬が生じるのであって、未完成または設計図通りではない建物であった場合には、報酬が生じないというのが原則的な請負の考え方ということです。
次回は、上記を理解していただいたうえで、税務判断するうえで必須となる「外注費か給与」かについて解説します。