買替特例を適用して取得した不動産の取得価格

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不動産

 個人が土地建物などの不動産を売却した場合は、譲渡所得の申告が必要です。
個人の譲渡所得の申告に当たっては、譲渡収入金額から取得費と譲渡費用を差し引き、適用できる項目があれば特別控除をして譲渡所得金額を求めます。

 取得費は通常、実際取得に要した金額(相続により取得した場合は、原則として被相続人が取得に要した金額)から減価償却費を減額して求めることとなりますが、譲渡所得の買替特例の適用を受けて今回売却する不動産を取得した場合は注意が必要です。

 例えば昭和60年に居住用不動産の買替の特例を受けて取得した不動産を売却した場合をみていきます。
なお、例を簡単にするため減価償却費、譲渡費用、特別控除は考慮外とします。

 昭和60年に居住用不動産を1億円で売却。その売却した不動産の取得価格は1,000万円とします。
代替えとして同額の1億円の居住用不動産を取得した場合、居住用不動産の買替特例を適用すれば税金はかかりません。
その不動産を平成30年に5,000万円で売却したとき、買替特例のことが頭になければ、1億円で買った不動産を5,000万で売却したのだから、所得は発生しないと考えてしまいます。
納税者も買替したことはすっかり忘れ、税理士が譲渡のことを聞いても損をして売却していることしか話さない方も多いと思います。
しかし、昭和60年の時に1億円の譲渡について買替の特例を適用しているため、取得価額は前の物件の取得価額を引き継ぎます。
つまり取得価額は実際に買った1億円ではなく、1,000万となるのです。
このため、今回の譲渡では、収入金額5,000万から取得費1,000万を差し引き、4,000万もの譲渡所得が発生することとなります。

 法人の場合は圧縮記帳をし、引当金や積立金で管理しているため、買替の有無が分からないということはないでしょう。
しかし、個人の場合は、何十年も前の申告時の譲渡の計算書に買替内容の記載があるのみで、その後の継続管理を納税者は行う必要がありません。
このため買替の事実を失念することが多いのです。
ましてや相続物件の時は、今の所有者は当時の税金の手続きを行っておらず、その内容について、全く知らないということがよくあります。

 現在では各種買替の適用要件が厳しくなっているので買替特例を使う人は少なくなっています。
しかし、バブル期やその前は、買替の適用要件が緩く、買替特例を使った申告が多くありました。
事業用資産の買替として取得した、前の居住用不動産を売却して今回売却する居住用不動産を取得した、収用があって今回売却する不動産を取得した、などの場合は注意が必要です。

 ところで、買替の有無を確認する方法があります。
個人で買替特例の適用があった場合、税務署は「取得価額引継整理表」というものを作成し、買替で取得した物件の取得価額を管理しています。
申告に必要であれば、納税者本人やその相続人、関与税理士は、その内容を教えてもらうことが可能です。
物件の登記事項証明書や本人確認書類、相続人であることがわかる書類などを持参し、管轄の税務署に事前予約の上、来署すれば手続きはスムーズに行えます。

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