重加算税の論点を全整理・解説

押印

 税務調査では、どんな税目であっても論点となる「重加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
 本稿ではシリーズ(連載)で、「重加算税」について体系的かつ網羅的に解説します。
なお、重加算税の賦課要件の前提となる「過少申告加算税」については、「過少申告加算税の論点を全整理・解説」と題して、全12回にわたり解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
 第15回となる本稿では、重加算税が課される場合に調査官から要請される「質問応答記録書」について考えてみましょう。

重加算税の課税要件としての「質問応答記録書」

 前回に転載した国税の内部資料にもあるとおり、重加算税の立証・事実認定を国税側が行う限り、国税が重要視してくるのが、本人の供述書面です。
 一般的に税務調査で多いのが、調査官が作成した書面である「質問応答記録書」(書面のタイトルは何であれ法的効果は同じです)をその場で読み上げて、代表者に対して署名・押印を求めてくるものです。
 そのような書面に署名・捺印など誰もしたくないのでしょうが、調査官が要請してくるくらいですから、無下に断るにも角が立ちそうで・・・という方も多くいます。

 まず認識してもらいたいのは、「質問応答記録書」に署名・押印して納税者が得することなど1つもないという事実です。この書面内容の如何にかかわらず、です。
 調査官が書面への署名・押印を求めてくるというのは、むしろ「書面がなければ重加算税を賦課できない」と考えるべきでしょう。

質問応答記録書への対応方法

 さて、この書面への署名・押印をどのようにして断るべきでしょうか。まず、要請してきた調査官に対して確認すべきは、

「この書面への署名・押印は、法律などの根拠があるのですか?
「それとも、任意の書面ですか?

と、あえて聞くことです。調査官もこう聞かれると、「任意です」としか回答できません。ここまでくると、

「法律の規定があれば私も応じますが、任意ということであれば、署名・捺印をするかどうかは自由なわけですから、応じることができません(応じません)。」

と、適正に反論することができます。

国税の内規にも明記されている

 さらに、根拠をもって署名・押印に反論したい場合は、質問応答記録書に関する国税の内規(内部規定)を調査官に明示することです。

「質問応答記録書作成の手引について(情報)」
(国税庁 課税総括課情報 平成29年6月30日)

 なお、この内規はTAINSなどのデータベースで収録されていますので、そちらを参照してください。

 この中には「問28 回答者が署名・押印を拒否した場合は、どのように対応すべきか。」という質問に対し、下記の回答が規定されています。

「まず、回答者から署名・押印を拒否する理由を確認する。回答者が、記載内容につき追加・削除・変更の申立てがあることを理由に署名・押印を拒否した場合、質問応答記録書の本文に当該申立て内容を追記し、改めて署名・押印を求める。(略)他方、回答者が、記載内容につき追加・削除・変更の申立てがない旨を述べながら、署名・押印を拒否した場合、又は回答者が署名・押印を拒否する理由を述べない場合には、(略)署名・押印をするよう説得する。ただし、署名・押印を強要することはもとより、そのような疑義を生じさせる言動をしないよう留意する。(以下、略)」

 ここに明記されている通り、調査官から「質問応答記録書」に署名押印を求められても「断ることができる」のです。
 国税には数えきれないほどの(内部)通達がありますが、これらは調査官が「守らなければならない」ルールです。調査官が「参考にする」ものではありません。上記もその1つということです。

法律を根拠に断ることも可能

 もう少し詳しく解説しておくと、法定書類でないものを税務署が提出依頼する行為は「行政指導」に該当することになります。行政指導には下記の一般原則が存在します。

行政手続法第32条第2項
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

 これを、質問応答記録書への署名・押印要請に置き直すと、

「調査官は、納税者が質問応答記録書の提出を断ったからといって、不利益な取扱いをしてはならない。」

となります。

 昨今ますます、調査現場で一筆を求められることが多くなっていますが、上記の対応は絶対に知っておき、調査官に明確な根拠をもって、署名・押印はしないことを主張すべきです。

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