個人⇒法人間で低額譲渡した場合の株価算定書の雛形を実際にみていきましょう。
ここでは3つのパターンを列挙します。
(パターン1)
1.評価目的
代表取締役社長××が○○株式会社株式をホールディングス(仮)へ売却する場合の評価額を算定すること。
2.評価額
上記1.の評価目的より、○○株式会社株式については、所得税基本通達59―6の規定を適用して評価額を算定した。
○○株式会社株式評価額
評価基準日 平成30年12月31日時点
評価額1株当たり1,000円
(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23~35共―9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共―9の⑷ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189―7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。(平12課資3―8、課所4―29追加、平14課資3―11、平16課資3―3、平18課資3―12、課個2―20、課審6―12、平21課資3―5、課個2―14、課審6―12、平26課資3―8、課個2―15、課審7―15改正)
⑴ 財産評価基本通達188の⑴に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
⑵ 当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189―3の⑴において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の⑵に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
⑶ 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
⑷ 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186―2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。
(パターン2)
1.評価目的
代表取締役社長××が○○株式会社株式をホールディングス(仮)へ売却する場合の評価額を算定すること。
2.評価額
上記1.の評価目的より、○○株式会社株式については、所得税基本通達59―6の規定を適用して評価額を算定した。
○○株式会社株式評価額
評価基準日 平成30年12月31日時点
評価額1株当たり1,000円
○所得税基本通達59―6
パターン1と同じ。
なお、実際の売買にあたっては実務慣行上10%のディスカウントを行う場合もある。
その場合の評価額は下記の通りである。
○○株式会社株式評価額
評価基準日 平成30年12月31日時点
評価額1株当たり900円
(パターン3)
1.評価目的
代表取締役社長××が○○株式会社株式をホールディングス(仮)へ売却する場合の評価額を算定すること。
2.評価額
上記1.の評価目的より、○○株式会社株式については、所得税基本通達59―6の規定を適用して評価額を算定した。
○○株式会社株式評価額
評価基準日 平成30年12月31日時点
評価額1株当たり1,000円
○所得税基本通達59―6
パターン1、2と同じ
なお、実際の売買にあたっては実務慣行上10%のディスカウントを行う場合もある。
その場合の評価額は下記の通りである。
○○株式会社株式評価額
評価基準日 平成30年12月31日時点
評価額1株当たり900円
なお、参照すべき裁決・裁判例・判例は多岐にわたるが、本案件の評価につき参照した事例について下に列挙する(※)。
(※)判例概略は、山田俊一『難問事例の捌き方第2集』(ぎょうせい 2016年)90頁~92頁によっている。
相続対策に伴う株式の売買価格が問題となった事例。裁判所は評価の困難性を認め、各種の評価方法を併用して時価を算定し、著しく低い対価とは3/4未満(75%未満)と認定。
○大阪地裁昭和62年6月16日判決
時価として類似業種比準価格を採用し、著しく低い価格の判断基準として時価の60%を用いて判断した事案。
○東京地裁平成19年8月23日判決
親族間で相続税評価額を対価とする譲渡(譲渡損失が生じて、損益通算した申告がなされた)が行われたところ、課税庁はその対価は「著しく低い」として、みなし贈与を適用して更正処分をしたところ、裁判所は相続税評価額を譲渡対価とした場合の、その対価は「著しく低い対価」とは言えないとして課税処分を取り消した事案(時価の約80%)。
○平成13年4月27日裁決
納税者は親子間の底地売買価格は時価を上回ると主張したが、審判所は公示価格を基にして時価額4,566万1,363円を算定し、売買価格(時価の59.4%)との差額は1,850万1,000円にも達するので、著しく低い価額の対価にあたるとした事案。
○平成15年6月19日裁決
原処分庁は、本件の土地建物売買(当該売買価額が時価に占める割合は79.3%)は著しく低い対価に当たると主張したが、売主の祖母は相続によって取得した土地家屋(長期に保有)を、借入金を返済するため、買主の孫は自らの将来を考え、金融機関から融資を受けて土地家屋を買い受けたもので、売買価格は固定資産税評価額などを斟酌して決定し、この土地建物の相続評価額を超え、これらを勘案すると、著しく低い対価による譲り受けには当たらないと、判断された事案。
<上記事案のまとめと所感>
上記事案を総合的に勘案すると、時価に取引価格の占める割合が80%であるときは「著しく低い対価」に当たらないと思われる。一方で、60%未満では著しく低いと認定された事案があり、また時価の3/4(75%)未満を著しく低い価額と認定した事例もある。
したがって、過去の裁決・裁判例・判例からは総合的に、「著しく低い対価」の「低い」程度とは、租税の安定性の見地から時価の20%程度を安全率と考えるのが無難であると結論づける。
次回は、この結論の補足や各パターンについての税務調査上の実践的な使用方法を見る前に上記で列挙した裁決・裁判例・判例の判示事項を挙げておきます。
なお、株価算定書雛形上は10%ディスカウントを「実務慣行上」と謳っていますが、あくまで私見であることを申し添えておきます。
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【出典書籍】
みなし贈与のすべて
<ロギカ書房>
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