重加算税の論点を全整理・解説

不正

 税務調査では、どんな税目であっても論点となる「重加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
 本稿ではシリーズ(連載)で、「重加算税」について体系的かつ網羅的に解説します。
なお、重加算税の賦課要件の前提となる「過少申告加算税」については、「過少申告加算税の論点を全整理・解説」と題して、全12回にわたり解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
 第11回となる本稿では、会社の従業員が行った不正行為に関して、法人に重加算税が課されるのかについて考察します。

法律上の主語は誰か?

 代表者自ら不正を行っていた場合、重加算税なのは当然のこととしても、従業員が役員等の目を盗んで行っていた不正が調査で発覚した場合、法人に対して重加算税を課されてしまうのは、法人の代表者からすれば感情的に受け入れられないのは当然のことかもしれません。法人は従業員不正の被害者でありながら、被害者側に重加算税が課されるとするなら、まさに「ダブルパンチ」となってしまいます。
 さて、重加算税の法律規定を確認しましょう(カッコ書き除く)。

国税通則法第68条(重加算税)
第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

 この条文規定における主語が「納税者が」となっていることから、法人であれば「法人が」仮装・隠ぺいを行ったら重加算税を賦課されることがわかります。

よくある論理的ではない反論

 ここで問題になるのは、この「納税者=法人」が誰を含むのか?という「範囲」です。
 調査官が「従業員の不正も法人の重加算税対象になります」と指摘した場合、よくある納税者・税理士の「感情的な」反論は、下記のようなものでしょう。

「従業員に不正されて法人が被害を受けたのに、なぜ法人に重加算税が課されるんだ!これなら被害が二重になるのではないか!?」

 この反論は論理的に間違っています。
 まず、国税通則法第68条における「納税者」の範囲に触れた反論ではないため、法的根拠がないこと、そして、この納税者の主張に対して、調査官は下記のように論理的に反論することが可能だからです。

「では、本税なり重加算税なり法人に不利益・損害が生じた金額を従業員に対して損害賠償請求すればいいではないですか」

 これは調査官の反論内容が正しくて、民事なり刑事なりで法人と従業員が債権債務を整理すべき問題であって、税務とは切り離して考えるべきなのです。

裁決事例における「納税者」の範囲

 税法に規定する「納税者」は、「国税に関する法律の規定により国税~を納める義務がある者~及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者」(国税通則法第2条第5号)と、納税義務を負う本人を意味するとされていますが、従業員や税理士の隠ぺい又は仮装行為に対しても、納税者の隠ぺい又は仮装行為として、重加算税の対象とする傾向があります。

最高裁平成18年4月20日判決(Z256-10374)
通則法68条1項の「納税者が」という主語は、「隠ぺいし、又は仮装し」という述語と、その後の「納税申告書を提出していた」という述語の双方に同時にかかるものである。そして、通則法は、納税者が第三者に委任して代理人により申告を行うことを認めているから(同法124条、税理士法2条1項1号)、納税者から委任を受けた第三者が、代理人として申告書を提出した場合であっても、通則法68条1項の解釈適用上「納税者が」「納税申告書を提出していた」ことになることは明らか~そうすると、納税者から委任を受けた第三者が隠ぺい・仮装を行い、これに基づき納税申告書を提出していた場合にも、同項の「隠ぺいし、又は仮装し」という述語との関係で、当該第三者を「納税者」と同視し得ると解することは、同項の文理上もさして困難ではない。

国税内で示されている判断基準

では、国税は何を判断基準として、「代表権のない者が行った行為」に対して重加算税を課してくるのでしょうか。下記は、TAINSで閲覧することが可能なのですが、大阪国税局の内部規定を見ると、これがわかります。

「課税処分に当たっての留意点」 平成25年4月(大阪国税局 法人課税課)
179ページ目
従業員であっても、会社の主要な業務を任され、長期にわたる不正や多額な不正など会社が通常の注意をすれば容易に発見できる不正行為を管理監督しなかったために、これを見過ごし、結果としてこれを起因とする過少申告が生じた場合には、会社の行為と同視することができる。

と記載されています。根拠の1つとして取り上げられているのが、

「請求人の従業員の行った不正経理行為は、請求人の行為と同一視されるとして、重加算税の賦課決定処分を認容した事例」
http://www.kfs.go.jp/service/JP/69/03/index.html

で、この公開裁決では重加算税の判断基準を

[1]従業員は請求人の経理事務を担う重要な地位にいたこと

[2]不正経理行為は請求人の課税申告に直接反映していること

[3]不正経理行為は長期に及び、現金出納帳などの確認をすれば容易に把握できたと認められる

[4]請求人(法人)はそれらの確認を行っていないこと

の4つを総合勘案としています。

さらに掘り下げると3つの基準がある

上記内部規定の記載に続く部分が面白く、

「なお、管理監督責任の不履行については事実関係を立証することが困難である場合が多いので、不正行為者がどの範囲まで業務を任され、当該業務がどのようにチェックされていたか等について、特に次の①から③までについて関係者に対する「質問応答記録書」を作成するなどして証拠化しておく必要がある」

としています。国税も重加算税の立証が難しいことは自己認識しているようです。上記①~③とは、

重要な事務を担当していたこと
当該従業員に業務を任せきりにしていたこと
法人が何らかの管理・監督をしないまま放置していたこと

とされています。裏を返すと、上記①~③に該当しないことを主張すれば、法人に対する重加算税は課されない、となります。

 次回も引続き、従業員不正に関する重加算税を考えてみます。

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