重加算税の論点を全整理・解説

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 税務調査では、どんな税目であっても論点となる「重加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
 本稿ではシリーズ(連載)で、「重加算税」について体系的かつ網羅的に解説します。
なお、重加算税の賦課要件の前提となる「過少申告加算税」については、「過少申告加算税の論点を全整理・解説」と題して、全12回にわたり解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
 第9回となる本稿では、法律規定には出てこないのですが、判例において重加算税の判断基準とされている「外部からもうかがいうる特段の行動」について解説します。

この最高裁判決から重加算税の判断基準が変わった

 重加算税の法律要件は、一言で「仮装または隠ぺい」行為に該当することではあるのですが・・・では、「仮装または隠ぺいする」とは具体的にどのような行為を指すのかは難しいところです。
重加算税に関する事務運営指針には、これらの行為をいくつか明示はしていますが、それらはあくまでも例示であって、事務運営指針に記載がない・該当しないことをもって絶対に重加算税ではないとは言い切れないのです。
 さて、判断基準が曖昧な重加算税なのですが、下記の判決から大きく流れが変わってきました。

平成7年4月28日 最高裁判決(TAINSコード:Z209-7518)
重加算税を課すためには、重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがいうる特段の行為をした上、その意図に基づく過少申告をした場合には、重加算税の賦課要件が満たされると解すべきである。

 この判決は、重加算税の基準に「外部からもうかがいうる特段の行動」を持ち込んだリーディングケースとされており、他の判決や裁決でも、この最高裁判決がよく引用されます。

公開裁決事例でもこの判断基準が持ち込まれている

例えば、比較的新しい公開裁決事例の中にも、「えっ!これで重加算税じゃないの?」という下記の裁決があります。

「当初から所得を過少に申告する意図を有していたと認められるものの、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動を認めることはできないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消した事例」(平成28年7月4日裁決)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/104/02/index.html
【要旨】
原処分庁は、請求人は、請求人の営む事業(本件事業)で多額の利益が生じており、当該利益は帳簿書類を作成し確定申告をすべき金額であることを十分に認識していながら、債務弁済や利殖のために税を免れることを意図し、その意図に基づいて本件事業に係る帳簿書類をあえて作成せずに、7年間にわたって本件事業に係る多額の収入金額を一切記載しない内容虚偽の所得税等の確定申告を行うとともに、消費税等についてあえて申告していなかったものと認められるのであって、これら請求人の一連の行為は、請求人が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告等をしたものと認められるから、請求人は、国税通則法第68条(重加算税)第1項及び第2項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎
となるべき事実の全部又は一部の隠ぺいを行った旨主張する。しかしながら、請求人が、所得税等の確定申告に際し、本件事業に係る所得を全て秘匿して、給与所得及び株式等に係る譲渡所得等のみを記載した内容虚偽の確定申告書を提出し、本件事業に係る所得を申告しなかったこと、また、本件事業に係る収入等につき消費税等の申告をしなかったことは、当初から所得を過少に申告する意図、又は法定申告期限までに申告しないことを意図して行われたものと認めるのが相当であるものの、請求人が本件事業に関する正当な収入金額、必要経費及び所得金額を秘匿するためにあえて帳簿を作成しなかったとまでは断定し難い上、審判所の調査によっても、本件事業に関する請求人のその余の行為において、過少申告等の意図を外部からもうかがい得る特段の行動などを見いだすことはできない。したがって、原処分庁が主張する請求人の行為は、過少申告等の意図を外部からもうかがい得る特段の行動とは評価することができないものであり、請求人の所得税等及び消費税等について、重加算税を賦課することはできないものといわざるを得ない。

 この裁決内容を見ると、「あえて作成せず」「内容虚偽」など、普通に仮装・隠ぺい基準で考えれば重加算税であろうと判断できそうですが、結果として納税者側が勝っています(重加算税の取消し)。
 また、この裁決でもう1つ着目すべきなのは、重加算税を課した国税側の論拠も「外部からもうかがい得る特段の行動をした」ことを用いていることです。つまり、国税側も(少なくとも不服申立ての段階では)重加算税の要件として、「外部からもうかがい得る特段の行動」があることは認識しているわけです。

税務調査に協力的かどうか

 また、帳簿の作成や原始記録の保存を知らなかったことについても、「過少申告等の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」に当たらないとして重加算税の賦課決定が取り消されている、下記裁決があります。
 通常、税法の不知等は納税者に責任があると解釈されますが、保存している原始記録をすべて見せるなど、税務調査にしっかりと協力をすれば、この要件に当たらないと判断されることもあり得ると考えられます。

平成28年5月9日裁決
請求人が、原処分庁及び当審判所に提出した原始記録~(1)部分的ではあるものの原始記録は保存されていたこと、(2)~請求人は本件調査に際して原始記録の提示を拒んではいなかったこと、(3)請求人が意図的に原始記録を破棄したとするに足りる証拠資料がないこと、さらに、(4)請求人は、帳簿を作成していない理由及び原始記録を保存していない理由について~(注:帳簿を作成しなければならないこと、帳簿の作成の仕方も分からなかった、原始記録についても、これらの書類を保存しなければならないことを知らなかった)答述していることからすれば、請求人は意図的に事業所得に係る原始記録を破棄したとまでは認められない~意図的に事業所得に係る原始記録を破棄したとまでは認められないのであるから、請求人に無申告又は過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとは認められない。

 重加算税の判断基準となる「外部からもうかがいうる特段の行動」について、次回は複数の裁決事例を取り上げて、さらに解説していきます。

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