税務調査では、どんな税目であっても論点となる「重加算税」ですが、その法律要件(国税通則法)・事務運営指針(通達)、そしてその解釈、さらには実務的な対応については理解されていないことが多く、また深く学んでみると意外にその判断は難しいことがわかります。
本稿ではシリーズ(連載)で、「重加算税」について体系的かつ網羅的に解説します。
なお、重加算税の賦課要件の前提となる「過少申告加算税」については、「過少申告加算税の論点を全整理・解説」と題して、全12回にわたり解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
第8回となる本稿では、重加算税の規定とは似て非なる「偽りその他不正の行為」と、重加算税の違いについて解説します。
「脱税」の定義は何か?
税理士として顧問先から「脱税って何ですか?」と聞かれれば、何と答えるのでしょうか。正直なところ、この質問に対する答えをきちんとできる人は少ないのではないのかと思います。さらに難しい質問は、「重加算税(の賦課要件)と脱税の違いって何ですか?」ではないでしょうか。
なぜこのようなことを書くかというと、「重加算税=脱税」と勘違いされていることが多いからです。
まず脱税の定義ですが、税法上脱税という言葉はありません。税法上、脱税をした者に対する罰則規定が存在しますので、下記を見れば脱税の定義がわかります。
偽りその他不正の行為により、第74条第1項第二号(確定申告に係る法人税額)に規定する法人税の額(第68条(所得税額の控除)又は第69条(外国税額の控除)の規定により控除をされるべき金額がある場合には、同号の規定による計算をこれらの規定を適用しないでした法人税の額)、第81条の22第1項第二号(連結確定申告に係る法人税額)に規定する法人税の額(第81条の14(連結事業年度における所得税額の控除)又は第81条の15(連結事業年度における外国税額の控除)の規定により控除をされるべき金額がある場合には、同号の規定による計算をこれらの規定を適用しないでした法人税の額)、第89条第二号(退職年金等積立金確定申告に係る法人税額)(第145条の5(外国法人に対する準用)において準用する場合を含む。)に規定する法人税の額若しくは第144条の6第1項第三号若しくは第四号(確定申告)に規定する法人税の額(第144条(外国法人に係る所得税額の控除)において準用する第68条の規定又は第144条の2(外国法人に係る外国税額の控除)の規定により控除をされるべき金額がある場合には、同項第三号又は第四号の規定による計算をこれらの規定を適用しないでした法人税の額)若しくは第144条の6第2項第二号に規定する法人税の額(第144条において準用する第68条の規定により控除をされるべき金額がある場合には、同号の規定による計算を同条の規定を適用しないでした法人税の額)につき法人税を免れ、又は第80条第6項(欠損金の繰戻しによる還付)(第81条の31第4項(連結親法人に対する準用)又は第144条の13第12項(欠損金の繰戻しによる還付)において準用する場合を含む。)の規定による法人税の還付を受けた場合には、法人の代表者(人格のない社団等の管理人及び法人課税信託の受託者である個人を含む。以下第162条(偽りの記載をした中間申告書を提出する等の罪)までにおいて同じ。)、代理人、使用人その他の従業者(当該法人が連結親法人である場合には、連結子法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者を含む。第163条第1項(両罰規定)において同じ。)でその違反行為をした者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
偽りその他不正の行為により、第120条第1項第三号(確定所得申告)(第166条(申告、納付及び還付)において準用する場合を含む。)に規定する所得税の額(第95条(外国税額控除)又は第165条の6(非居住者に係る外国税額の控除)の規定により控除をされるべき金額がある場合には、同号の規定による計算をこれらの規定を適用しないでした所得税の額)若しくは第172条第1項第一号若しくは第2項第一号(給与等につき源泉徴収を受けない場合の申告)に規定する所得税の額につき所得税を免れ、又は第142条第2項(純損失の繰戻しによる還付)(第166条において準用する場合を含む。)の規定による所得税の還付を受けた者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
脱税と除斥期間との関連
上記から、「脱税」とは税法上の文言で表すと「偽りその他不正の行為」になるのです(正確には、「偽りその他不正の行為」を行って「税金を免れる」ことです)。
では、「偽りその他不正の行為」は税法上、罰則規定にしか登場しないのかというとそうではありません。
次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。
一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等
二 偽りその他不正の行為により当該課税期間において生じた純損失等の金額が過大にあるものとする納税申告書を提出していた場合における当該申告書に記載された当該純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)についての更正(前二項の規定の適用を受ける法人税に係る純損失等の金額に係るものを除く。)
このように、「偽りその他不正の行為」をすると、通常「5年」となっている更正の(除斥)期間が「7年」に延長されるのです。
脱税と重加算税の明確な違い
さて、再度確認ですが、「脱税」の定義は
→ 税額を免れる(申告すべき税額を過少にする)
となります。ここで大事なのは、脱税に対する罰則は「刑事罰」ということです。つまり、脱税をしたら懲役または罰金を課すことで脱税に対する罰を与えるという趣旨によるものなのです。
一方、重加算税(通常35%)は刑事罰ではありません。ここが勘違いしやすいポイントです。重加算税制度は最高裁判所昭和45年9月11日判決によれば
「各種の加算税を課すべき納税義務違反が課税要件事実を隠ぺいし、または仮装する方法によつて行なわれた場合に、行政機関の行政手続きにより違反者に課せられるもので、これによつてかかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もつて徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨、性質を異にするもの」
であるとされています。つまり、重加算税とは行政罰であり、35%も課されたくなかったら、「隠ぺい」や「仮装」などという行為をしないようにしない、という趣旨なのです。
調査官の思い込みに反論する
この違いは重要です。なぜなら、調査官のほとんどは「脱税=重加算税」と思い込んでいるからです。
以上より、重加算税とは
→ 納税申告書を提出する
が要件となっています(なお、その前提は過少申告加算税が課されることになります)。
ここで理解いただきたいのは、「不正をした」「税額を免れた」から重加算税ではないということで、税務調査において調査官が誤った根拠・考え方を提示してきた場合は、適正に反論する必要があります。