オーナー個人財産の解消、会社への貸付金の解消方法①

貸付金

【質問】

オーナー個人財産の解消、会社への貸付金の解消方法について教えてください。

【回答】

オーナー貸付金(社長借入金)はプレM&A時点で極力解消しておくことが望ましいです。オーナー個人財産はM&Aにおける譲渡価格算定上、マイナス査定になります。

解説

 解消方法で考えられる事項は下記です。

○オーナーが会社に対し債権放棄する(会社にとっては債務免除)
○DES
○擬似DES(金融機関からの一時的預入スキーム含む)
○役員給与減額⇒減額分で徐々に精算
○生命保険解約金で返済
○代物弁済
○第二会社方式
○貸付金を親族へ贈与
○受益権分離型スキームによる圧縮後の元本受益権の贈与
○持分会社移行による貸付金減額スキーム(本書では説明割愛、問題点・リスク多し。詳細は拙著『Q&A 中小・零細企業のための事業承継戦略と実践的活用スキーム』(ロギカ書房)をご参照ください)

 通常の課税実務では、「○オーナーが会社に対し債権放棄する(会社にとっては債務免除)」と「○役員給与減額⇒減額分で徐々に精算」を併用する方法が一般的です。
 一気に解消する場合、○DESを選択することになります。
 以下では「○オーナーが会社に対し債権放棄する(会社にとっては債務免除)」における留意点を列挙していきます。

オーナーが会社に対し債権放棄

(STEP 1)

 貸付金放棄⇒会社では債務免除益という益金が計上されるため、通常繰越欠損金がある場合に実行します。

(STEP 2)

 株価評価上昇⇒相続税法第 9 条より、みなし贈与課税発生が生じます。債権放棄者から既存株主への贈与です。

この際の贈与税の課税標準は
債権放棄後株価…Ⓑ、Ⓒ、Ⓓ+債務免除益
債権放棄前株価…Ⓑ、Ⓒ、Ⓓ(何も数値加減算しない)

 上記の差額×所有株式数です。当然、当該債務免除で株価上昇しても債務超過から債務超過なら、株価0のため、贈与に係る課税関係は生じません。
 上記、債権放棄に関しては、「債権放棄通知書」「念書」の確定日付を付すことは当局調査のため必須と思われます。贈与認定を避けるためです。

(参照:質疑応答事例)第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/16/03.htm

上記質疑応答事例では相手側が「第三者」となりますが、社長(オーナー)でも(だからこそ)平仄を合わせることは必須です。

債務免除益の金額と繰越欠損金の金額の大小比較によっては、法人が清算し(つまり個人成りするということ)期限切れ欠損金の損金算入まで視野に入れる可能性もあります。

【法人税法第59条第1項第3号】
(会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入)
 内国法人について更生手続開始の決定があった場合において、その内国法人が次の各号に掲げる場合に該当するときは、その該当することとなった日の属する事業年度(以下この項において「適用年度」という。)前の各事業年度において生じた欠損金額(連結事業年度において生じた第81条の18第1項(連結法人税の個別帰属額の計算)に規定する個別欠損金額(当該連結事業年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該内国法人に帰せられる金額を加算した金額)を含む。)で政令で定めるものに相当する金額のうち当該各号に定める金額の合計額に達するまでの金額は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
三 第25条第2項(会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定に従つて行う評価換えに係る部分に限る。以下この号において同じ。)(資産の評価益の益金不算入等)に規定する評価換えをした場合 同項の規定により当該適用年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される金額(第33条第3項(資産の評価損の損金不算入等)の規定により当該適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額がある場合には、当該益金の額に算入される金額から当該損金の額に算入される金額を控除した金額)

これに係る留意事項として、下記の質疑応答事例が参考になると思われます。

(参照:質疑応答事例)法人が解散した場合の設立当初からの欠損金額の損金算入制度(法法59③)における「残余財産がないと見込まれるとき」の判定について
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/34/01.htm

 なお、質疑応答事例中にある

「債務超過の状態であるかどうかは、一般的には実態貸借対照表(法人の有する資産・負債の価額(時価ベース)で作成された貸借対照表)」

とは、課税実務上は、財産評価基本通達によって評価替えされた評価額ベースでも問題ないと思われます。
 この債務免除スキームにおいては、行為計算否認(相法64①)は発動しません。浦和地裁昭和56年 2 月25日裁判例の判示があります。金子宏先生は『租税法』の中で「行為計算否認は同族会社の単独行為や契約が必要で、当該債務免除は、株主の単独行為であるから発動しない」と述べておられます。

(参考関連事案)
東京税理士会会員相談室0051 所得税 同族会社に対する貸付金等の回収不能と更正の請求【東京税理士界 平成27年10月1日第705号掲載】
(TAINZ コード 所得事例東京会010051)

【事例】
1
 X 社の代表取締役である甲は、金銭消費貸借契約書により同社に5,000万円の貸付金を有している。
 この契約書によれば、毎年4月1日~9月30日間の利息は9月30日に、10月1日~翌年3月31日間の利息は翌年3月31日に、年3%の利率で年2回に分けて支払うことになっており、返済期限についての定めはない。

2
 同社は平成22年頃から経営不振に陥り、甲への利息の支払が困難となったため、甲は、平成25年10月1日付で、同日以後の期間に係る利息を無利息とする覚書を同社と取り交わした。

3
 同社の平成27年3月期の決算書には、この貸付金に対する未払利息の累計額375万円が計上されており、甲は、この未払利息に相当する未収利息(平成23年分75万円、平成24年分150万円、平成25年分150万円)について、雑所得として同社からの給与所得などとともに各年分の所得税の確定申告をしている。

4
 同社は、平成26年3月期において本社社屋の敷地である宅地を甲に譲渡し、その譲渡代金で金融機関からの借入金を返済したので、同社の現在の借入金は甲からの借入金5,000万円だけであり、業績は芳しくないが事業は継続している。同社の平成23年3月期以後の各事業年度の損益は毎期赤字であり、特に平成26年3月期においてはバブル時に高額で取得した前記の宅地を譲渡したことによる多額の譲渡損失が生じている。
 また、同社は、前記の宅地を甲に譲渡した後、甲から同宅地を同社の本社社屋の敷地として使用貸借により無償で借り受けているが、これについては税務署長に無償返還届出書を提出しており、借地権は存在せず、ほかに換価価値のある資産はなく、債務超過の状態にある。

5
 甲が同社に対する貸付金債権及び未収利息債権を免除した場合、甲の所得税の課税関係はどのようになるか。

【回答】
1
 免除した貸付金5,000万円の損失の金額は、甲の所得税の課税上なんら考慮されない。

2
 免除した未収利息の損失の金額については、次による。

⑴ X社の債務超過の状態が相当期間継続し、その未収利息の弁済を受けることができないと認められる場合において、甲が書面によりその免除を同社に通知したものであるときは、甲は、平成23年、平成24年及び平成25年の各年分の所得税について更正の請求を行うことにより、一定の金額を限度として、その未収利息に係るこれらの各年分の雑所得について納付した所得税の還付を受けることができる。
⑵ 前記⑴に該当しない場合には、甲の所得税の課税上なんら考慮されない。

【検討】
Ⅰ 貸付金5,000万円の免除について
 雑所得の基因となる資産(山林及び生活に通常必要でない資産を除く。)の損失の金額は、保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補填される部分の金額、資産の譲渡又はこれに関連して生じたもの及び雑損控除の対象となるものを除き、その損失の生じた日の属する年分の雑所得の金額(その損失の金額を必要経費に算入しないで計算した雑所得の金額)を限度として、その損失の生じた日の属する年分の雑所得の金額の計算上、必要経費に算入される(所法51④)。
 本事例のX社に対する貸付金5,000万円は、平成25年9月30日までは、利息収入の生ずる貸付金、すなわち雑所得の基因となる資産であったが、同日後は利息の生じない無利息貸付金となったため、その貸付金はその免除をした時においては「雑所得の基因となる資産」に該当しない。
 したがって、本事例の貸付金5,000万円の免除による損失は、その貸付金の弁済を受けることができないために免除したものであるかどうかに関係なく、甲の所得税の課税上なんら考慮されない。

Ⅱ 未収利息375万円の免除について
1
 その年分の各種所得の金額の計算の基礎となる収入金額(不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に係る収入金額を除く。以下同じ。)の全部又は一部を回収することができないこととなった場合には、次に掲げる金額のうち最も少ない金額に相当する収入金額はなかったものとみなされる(所法64①、所令180②、措令4の2⑥、20④、21⑦、25の8⑭、26の23⑥、所基通64-2の2)。

⑴ 回収不能額
⑵ ⑴の回収不能額が生じた時の直前において確定しているその回収不能額に係る収入金額の属ずる年分の課税標準(※)の合計額
⑶ ⑵の課税標準の計算の基礎とされた回収不能額に係る各種所得の金額
※課税標準とは、総所得金額、山林所得金額、退職所得金額、上場株式等に係る配当所得の金額、長期譲渡所得の金額、短期譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額又は先物取引に係る雑所得等の金額をいう。

2
 本事例の未収利息の免除による損失の金額が前記1の⑴の回収不能額(以下「回収不能額」という。)に該当する場合には、その未収利息に係る平成23年、平成24年及び平成25年の各年分の雑所得の収入金額のうち前記1の⑴~⑶のうち最も少ない金額に相当する金額はなかったものとみなされ、これらの各年分の所得税について更正の請求をすることができる(通則法23①、所法152)。

3
本事例の場合に問題となるのは、未収利息の免除による損失の金額が、回収不能額に該当するものであるかどうかである。未収利息の免除による損失の金額が回収不能額に該当するためには、次の要件を満たしていることが必要である〔所基通51-11⑷、64-1〕。

⑴ X社の債務超過の状態が相当期間継続し、未収利息の弁済を受けることができないと認められること
⑵ 書面によりその免除を同社に通知したこと

4
本事例の未収利息を免除する時点において前記3の⑴の要件を満たしているかどうかは、事実の認定に関する事柄であるが、X社が事業を継続している事実からみて、その判定については微妙な問題があるといえよう。
 本事例の未収利息の免除による損失の金額が回収不能額に該当するとして行った更正の請求が認められた場合には、これらの各年分の所得税について減額更正が行われ、その減額更正により減少することとなった所得税額の還付を受けることができる。
 しかし、その更正の請求について、税務署長から「更正をすべき理由がない」とする処分を受けた場合には、税務署長に対する異議申立て、国税不服審判所長に対する審査請求又は訴訟によりその処分が取り消されない限り、未収利息の免除による損失の金額は、甲の所得税の課税上なんら考慮されない。

5
平成23年以後の各年分の所得税についての更正の請求は、原則として、各年分の法定申告期限の翌日から5年以内に限り、行うことができる。ただし、法定申告期限の翌日から5年を経過している場合であっても、未収利息を免除した日の翌日から2月以内であれば、更正の請求をすることができる(通則法23①、平成23年改正法附則36①、所法152)。

Ⅲ 事実上の回収不能による更正の請求について

1
 甲が未収利息を免除しない場合であっても、X社の資産状況、支払能力等からみてその未収利息の全額を回収することができないことが明らかである場合には、その事実上回収することができないと認められる未収利息の全額は、回収不能額に該当する(所基通51-12、64-1)。

2
 甲が未収利息を免除した場合には、未収利息債権は法律上消滅するから、その免除を事由として行った更正の請求が認められない場合には、その免除を事由として再び更正の請求を行うことはできない。これに対し、未収利息を免除せずに、X社の資産状況、支払能力等からみてその未収利息の全額を回収することができないことを事由として行った更正の請求が認められない場合には、未収利息債権は法律上消滅していないから、その後におけるX社の資産状況、支払能力等の更なる悪化を事由として、再び更正の請求をすることができる。
 平成23年以後の各年分の所得税についての更正の請求は、法定申告期限の翌日から5年を経過していても、回収不能額が生じた日の翌日から2月以内であれば、いつでも行うことができるから、更正の請求が認められるまで何回でも更正の請求を行うことができる。

3
本事例の未収利息については免除を行わずに、事実上の回収不能を事由として更正の請求を行うことがベターであるといえる。

Ⅳ その他
 甲が貸付金債権及び未収利息債権について債務の免除を行うに当たっては、前述した甲の所得税の課税関係のほかに、債務の免除を行った場合におけるX社の法人税、X社の個人株主に対する贈与税及び甲に相続が開始した場合の相続税の課税関係についても検討を行ったうえで、判断することが必要である。

【東京税理士会 会員相談室提供】

 

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【出典書籍】
Q&A「税理士(FP)」「弁護士」「企業CFO」単独で完結できる 中小企業・零細企業のための M&A実践活用スキーム
<ロギカ書房>

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